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「選択」の脳内指令、前頭葉より中脳ドーパミンニューロンが早く出す-筑波大

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2020年07月03日 AM11:45

ドーパミンニューロン異常は、なぜ合理的意思決定を阻害するのか?

筑波大学は7月1日、合理的な意思決定を支える脳のメカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大大学院生命システム医学専攻4年生の惲夢曦氏と、同医学医療系の松本正幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

日常生活を送っていると、さまざまな場面で選択を迫られる。意思決定を行うメカニズムは、人間の理解につながる極めて重要な問題であり、心理学や哲学、経済学、人工知能などの学問分野に加え、近年では神経科学においても主要なトピックスとして取り上げられている。一方、薬物依存症や強迫性障害では、不合理な意思決定がしばしば見られる。これらの疾患の主な病因の1つは、中脳ドーパミンニューロンの異常だが、ドーパミンはいわゆる「快楽物質」であると考えられており、ドーパミンを産生するニューロンの異常がなぜ合理的な意思決定を阻害するのかは不明だった。

ドーパミンニューロンの活動変化が、選択肢の「価値情報」を「選択指令」に変換

今回、研究グループは、ドーパミンニューロンが意思決定に果たす役割を解明するため、ヒトに近縁なマカク属のサルを被験動物として、このサルが選択肢の価値に基づいて意思決定を行う際のドーパミンニューロンの活動を記録した。

実験室の中で、サルがモニターに向かって座り、モニターに提示される行動課題を行った。この課題では、6種類の図形が用いられ、それぞれ異なる量(異なる価値)の液体報酬と関連付けられていた。その図形の中から、2つの図形がランダムに、そして前後に提示された(最初に提示された図形を第一選択肢、次に提示された図形を第二選択肢と呼ぶ)。サルは第一選択肢が提示されている間に、この図形に関連付けられた報酬の価値に基づいて、第一選択肢を選ぶのか選ばないのかをボタン操作によって決定した。第一選択肢を選んだ場合、第二選択肢は提示されるが、サルはこの選択肢を選ぶことはできず、課題の最後に第一選択肢に関連付けられた報酬を得た。一方、第一選択肢を選ばなかった場合、第二選択肢に関連付けられた報酬を得た。この課題では、サルは、第一選択肢の提示期間に意思決定を行っていると限定できるため、この期間のドーパミンニューロンの活動を解析すれば、このニューロンが意思決定に果たす役割が明らかになるというわけだ。

結果、サルが意思決定を行っている間に、異なる活動パターンを示す複数のドーパミンニューロングループを発見。そのうちの1つのグループは、提示された選択肢の価値が高いほど強く活動を上昇させた。一方、選択肢の価値に関わらず、サルがその選択肢を選ぶときだけ活動を上昇させるものや、選択肢の価値とサルの選択行動の両方を反映した活動を示すものも多く見つかった。特に、ドーパミンニューロンの全グループの活動ダイナミクスを見ると、選択肢が提示された直後のドーパミンニューロンの活動は選択肢の価値を反映していたが、その活動はサルが選択肢を選ぼうかどうか決めようとしている間に選択行動を反映した活動に徐々に変化することが観察された。

高次中枢の前頭葉より進化的に保存の中脳ドーパミンニューロンで早く変換

先行研究が意思決定の中枢として注目してきた前頭葉の眼窩前頭皮質からも神経活動を記録し、ここでも同様に、選択肢の価値を反映した活動が選択行動を反映した活動に変化することを観察した。しかしながら、価値から選択への活動変化は、眼窩前頭皮質よりも、ドーパミンニューロンにおいて、より早く生じていることが判明。以上の結果から、選択肢の「価値情報」をその選択肢を選ぶのかどうかの「選択指令」にいち早く変換しているのは、霊長類で最も発達した高次中枢である前頭葉ではなく、進化的に保存された中脳のドーパミンニューロンであることが明らかになった。

今回の発見は、ドーパミンニューロンの活動ダイナミクスが、合理的な意思決定を支える重要な神経基盤であることを示すもの。薬物依存症や強迫性障害では、この活動ダイナミクスに異常が生じていると考えられる。研究グループは、「今後、ドーパミンニューロンの異常な活動ダイナミクスを、光遺伝学等を用いて矯正する手法の開発を進め、合理的な意思決定が障害される疾患の治療法の探索を進める」と、述べている。

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