医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 細胞老化を防ぐ酵素「NSD2」を発見、そのはたらきの仕組みも解明-熊大

細胞老化を防ぐ酵素「NSD2」を発見、そのはたらきの仕組みも解明-熊大

読了時間:約 3分5秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年06月25日 PM12:30

老化細胞の適切な制御が、老化スピードを調整できる可能性

熊本大学は6月24日、網羅的な遺伝子解析を用いて、細胞老化をブロックする酵素として「」を同定し、そのはたらきを解明したと発表した。これは、同大発生医学研究所細胞医学分野の中尾光善教授、田中宏研究員、井形朋香研究員(日本学術振興会特別研究員、令和2年3月まで)らの研究グループによるもの。研究成果は、老化分野の科学雑誌「Aging Cell」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

日本の高齢化は世界に類を見ないスピードで進展し、今後も高齢化と平均寿命の延長が予測される中、“健康を維持しながら老いる”ことが重要になっている。身体を構成する多くの細胞は、分裂を繰り返して増えると、やがてその機能が低下して増殖を停止する。これを「」と呼び、健康と寿命に関わる重要な要素と考えられている。放射線や紫外線などの物理的なストレス、薬剤などの化学的なストレスによって、ゲノムDNAが損傷を受けると細胞老化は促進されるが、老化のメカニズムはまだよくわかっていない。

細胞老化には良い点も悪い点もある。細胞のがん化が始まると、細胞老化が生じてがんの発生を防ぐ役割を果たす。他方、細胞老化によって多くの病気が起こりやすくなる。したがって、細胞老化は適切に制御されることが重要だ。制御することで老化細胞自身は増殖能を失うが、近年、老化細胞がさまざまなタンパク質を分泌して周囲の細胞にはたらきかけて、慢性的な炎症やがん細胞の増殖をかえって促進することが注目されている。予想される以上に老化細胞はアクティブにはたらいているので、細胞老化は、身体全体の老化の原因になると考えられるようになった。例えば、老齢マウスの体内には老化細胞が蓄積していくが、これらを除去すると全身の老化が抑えられるという報告がある。つまり、細胞老化を制御できれば、全身の老化の進度を調節できる可能性がある。

細胞老化を防ぐ「NSD2メチル基転移酵素」を同定

研究グループは、エピジェネティクスの観点から、細胞老化のメカニズムについて研究を進めてきた。エピジェネティクスは、すべての遺伝子のはたらき方(ON/OFF)を明らかにする研究分野であり、生命現象や病気の発症、さらに老化にも密接に関わると考えられる。現在までに、ヒト線維芽細胞(すべての組織・器官に存在する細胞種)の老化に関わる因子を幅広くスクリーニングして、複数の因子を同定している。また、老化細胞ではミトコンドリアの代謝機能が著しく上昇していること、「SETD8メチル基転移酵素」が細胞老化を防ぐ酵素であることも報告している。

今回の研究では、「NSD2メチル基転移酵素」が細胞老化を防ぐ役割をもつことを発見した。これまで、NSD2は、遺伝子のはたらきを調節することが報告されており、とりわけ、ゲノムDNAに巻き付くヒストンタンパク質をメチル化して、その近傍の遺伝子のはたらきを高めると考えられている。しかし、細胞老化との関連性は知られていない。そこで、線維芽細胞において、NSD2の遺伝子のはたらきを抑えるノックダウン(RNA干渉法)を行ったところ、細胞老化が誘導されて、老化細胞の典型的な特徴が現れたことから、NSD2は細胞老化を防ぐ役割をもつことがわかった。

次に、NSD2が減少した老化細胞を詳しく調べるため、最新のシークエンサーを用いて、すべての遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、細胞老化に関わる遺伝子群の発現が増加するとともに、特に、細胞増殖を促進するタンパク質の遺伝子群のはたらきが低下していた。これらの遺伝子群に位置するヒストンは、増殖中の細胞ではNSD2によってメチル化を受けているが、NSD2が減少した老化細胞ではメチル化が低下していた。つまり、NSD2の減少によって、細胞増殖に関わる遺伝子群の働きが不活性化して、増殖が停止することが示された。

NSD2が低下した老化細胞では血清による増殖能を完全に欠いている

さらに、血清応答実験により、どのようにNSD2のはたらきが調節されているかを検討した。通常、細胞は血清中の増殖因子(増殖を促進するタンパク質)が作用することで増殖する。一方で、老化細胞は増殖を不可逆的に停止ししており再び増えることはないと予想される。血清飢餓で前培養した細胞は増殖を停止し、血清を添加すると速やかに増殖を再開する。実験の結果、血清を添加するとNSD2の量が速やかに増加すること、そして、増殖促進の遺伝子の発現と細胞増殖にNSD2が必要であることがわかった。さらに、NSD2が低下した老化細胞では血清による増殖能を完全に欠いていることがわかった。つまり、NSD2は細胞増殖と血清応答を維持することで、細胞老化を防ぐと考えられる。

今回、同研究グループによる4つ目の細胞老化の防御因子の同定に至った。「NSD2が細胞老化を防御するという発見を契機として、老化の基本メカニズムを明らかにしたものであり、老化のしくみ解明および酵素の活性を調節した制御法の開発に役立つと期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大