ベバシズマブは継続的投与が必要、ワクチンなら長期効果が期待できる
慶應義塾大学は6月24日、神経線維腫症2型(NF2)の腫瘍血管が血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)を高発現していることに着目し、新たな治療法であるVEGFRワクチンを開発したと発表した。これは、同大医学部脳神経外科学教室の戸田正博准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature communications」(オンライン版)に掲載されている。
画像はリリースより
NF2は、両側性前庭神経鞘腫を主徴とする遺伝性疾患で、若年より聴力が障害され、進行が早く10年生存率は67%と報告されている。前庭神経以外にも無数に神経鞘腫を生じ、髄膜腫や上衣腫等の腫瘍も併発する。極めて難治性の希少疾患で、手術では神経損傷の可能性が高く、多発腫瘍に対して積極的に行うことはできない。放射線治療は一定の成績を示しているが、大型の腫瘍には適応されず、多発腫瘍を制御することは困難で、悪性転化のリスクも報告されている。近年、NF2の神経鞘腫は血管新生因子である血管内皮増殖因子(VEGF-A)を高発現しており、その分子標的薬であるベバシズマブの有効性が示された。しかし、この薬剤は約2週間に1度の継続的投与を要する。
研究グループは、NF2の神経鞘腫では、血管内皮細胞のみならず腫瘍細胞にVEGF受容体(VEGFR)が高発現していることに着目し、VEGFRを標的とする腫瘍ペプチドワクチンの開発に着手した。ワクチンによって誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)は、VEGFRを発現している標的細胞を破壊し、かつ体内でCTLが持続するため、長期効果が期待される。
臨床試験実施中、一部症例で腫瘍縮小および聴力改善を確認
研究グループは現在、探索的臨床試験「進行性神経鞘腫を有するNF2に対するVEGFR1/2ペプチドワクチンの第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験」を実施中。ワクチン投与が終了した7例において、同ワクチンに関連する重篤な合併症はなく、VEGFR特異的なCTLが誘導され、一部の症例で腫瘍縮小および聴力改善が認められた。また、NF2の腫瘍増大には、制御性T細胞(抗腫瘍免疫抑制性)が関与し、VEGFRワクチンは腫瘍細胞、腫瘍血管、さらに制御性T細胞を破壊し得ることも判明。有効性・安全性は未だ確立されていないが、今後も試験を継続し、試験の完遂を目指すという。
腫瘍ペプチドワクチンは、ある特定のヒト白血球抗原(HLA)の型に対して効力を発揮するものだ。今回の臨床試験では、HLA-A*2402型とHLA-A*0201、A*0206、A*0207型に対して、それぞれ別々のペプチドが投与されている。そこで、単一薬剤で多くの患者へ投与できるように、現在、新規混合ペプチドの開発にも着手し、医師主導治験の準備を行っているという。研究グループは、「NF2は希少疾患であり、治療薬開発に焦点が当てられる機会は多くない。難治性NF2の患者に、一刻も早く新しい治療薬を届けられるよう、今後も一層尽力していく」と、述べている。
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