ヒト腸内フローラに存在する3つの型「エンテロタイプ」
早稲田大学は6月24日、機械学習手法を用いて、3つの型に分類されるヒトの腸内フローラにおいて、それぞれの型に共通して現れる細菌群を推定し、その細菌群を構成する細菌が酪酸を産生する機能を持つことを発見したと発表した。これは、同大大学院先進理工学研究科の細田至温後期博士課程生、同大理工学術院の浜田道昭教授らの研究グループと、同大理工学術院の服部正平教授(研究当時)、東京大学大学院情報理工学系研究科の福永津嵩助教、および産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリの西嶋傑研究員(研究当時)との共同研究によるもの。研究成果は、オープンアクセス科学誌「Microbiome」に公開されている。
画像はリリースより
近年の次世代シーケンサー技術の発達により、環境中の細菌を調べるメタゲノム解析が可能になった。これにより、ヒトの腸内フローラを調べる研究が発展した。ヒト腸内フローラのデータ解析が進むにつれ、それらには3つの型が存在していることがわかった。これらの型はエンテロタイプと呼ばれている。エンテロタイプはヒト腸内フローラ研究では広く用いられ、食生活などとの関係の解明に役立てられてきた。一方で、エンテロタイプによる層別解析には問題点もある。
例えば、細菌群A~Cがあり、そのうちBがメジャーな細菌群だった場合、Bの影響でマイナーな細菌群であるAとCを考慮できず、クラスタリングでは「BとAの細菌群をもつ人」と「BとCの細菌群をもつ人」を同じクラスタとして分類してしまう。 このように、細菌群(assemblage)を考慮できないという点が問題視されていた。
既存のエンテロタイプ以外に、どのタイプにも現れるC細菌群を発見、日本人の腸内では少ないことも判明
今回研究グループは複数の国の成人被験者の腸内フローラデータから細菌群を推定し、細菌群とエンテロタイプとの関係を知ることで、新たなヒト腸内フローラの構造の解明を試みた。
その結果、各エンテロタイプに対応する細菌群3つに加え、どのタイプにも現れる1つの細菌群が発見された。研究グループはこの細菌群を、Clostridium属の細菌が支配的であることに因んで「C細菌群(C-assemblage)」と名付けた。このC細菌群は酪酸産生菌と呼ばれる細菌で構成されていた。これらは、酪酸が抗炎症作用を持つと示唆されていることから、健康に関係する菌として注目されている。また、このC細菌群は日本人の腸内では少ないこともわかったという。
さらに研究グループは、潜在的ディリクレ配分法(LDA, latent Dirichlet allocation)という機械学習アルゴリズムにより、メタゲノムデータから細菌群を推定する手法を開発した。
C細菌群のメカニズム解明と、腸内フローラを利用した治療法の開発に期待
近年、糞便移植による炎症性腸疾患の治療が導入されるなど、ヒト腸内フローラ研究の更なる発展が期待されている。今回の研究成果により、今後のヒト腸内フローラ研究において、C細菌群を考慮した解析が用いられると考えられる。
「今回発見されたC細菌群に関して今後の展望として2点挙げられる。1つ目はC細菌群を用いた解析だ。未だ不明点の多いヒト腸内フローラの理解のために、C細菌群の存在量と疾患との関連の調査など、今回の研究で明らかになった構造を用いた解析が重要だと考えられる。2つ目はC細菌群理解のための解析だ。例えば、C細菌群が構成されるメカニズムなどの解明のための研究がこれにあたる。C細菌群がエンテロタイプに関係なく存在することから、C細菌群の機能はヒトに不可欠なものである可能性がある。C細菌群が構成されるメカニズムが解明されると、将来的には腸内フローラを利用した治療法の開発につながるかもしれない」と、研究グループは述べている。
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