介護費の高額化に影響するのは個人的要因か、地域要因か
筑波大学は6月22日、年間の介護保険サービス費(以下、介護費)に影響する個人および地域の要因を全国レベルで解析した結果を発表した。これは、同大医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野/ヘルスサービス開発研究センター田宮菜奈子教授、森隆浩准教授、金雪瑩助教らの研究チームによるもの。研究成果は、「European Journal of Public Health」に掲載されている。
画像はリリースより
高齢化のさらなる進展とともに医療費、介護費は増大し、国・地方の財政の大きな部分を占めている。今後の介護費の伸び率は医療費の伸び率より大きいと見込まれており、介護費に影響する要因を明らかにすることは重要な課題である。これまでの介護費の要因に関する先行研究は、都道府県単位の研究が主であったため、個人レベルの介護費に関する交絡要因のコントロールが困難であるなど限界があった。また、個人レベルのデータで分析した先行研究は、地域要因を考慮していないという問題点があった。介護保険サービスの保険者は市町村で、地域の要因が介護費にどのように影響するかを把握することには大きな意義がある。
そこで、全国介護レセプトデータ(2016年4月〜2017年3月)と、「統計でみる市区町村のすがた2016」のデータを利用し、65歳以上の介護保険サービス利用者(介護予防サービス利用者は除外)の年間介護費に関連する個人および地域の要因を明らかにすることを目的に研究を行った。
施設か在宅かで年間介護費に約85万円の差
年間介護費は、介護保険サービスを利用した月の自己負担額と保険請求分請求額の合計を算出し、介護保険サービス全体(在宅と施設の両者を含む)の解析に加え、在宅と施設に層別化した解析も行った。結果、1人当たりの年間介護費は全体で約173万円、施設サービス利用者(249万円)は、在宅サービス利用者(134万円)の約1.9倍だった。多変量一般化線形モデルでは、施設サービス利用者は在宅サービス利用者より年間介護費が約85万円多いことがわかった。高額な介護費と関連する個人的な要因として、「年齢が高い」「要介護度が高い」に加え、「1割の自己負担率」が示された。
都市部で高額な理由、「家族介護の難しさ」「介護サービスの利用しやすさ」と推測
また、高額な介護費と関連する地域要因として、都市部に位置している、高齢者10万人当たりの介護福祉施設が多い、が認められた。介護保険制度では、原則1割負担だが、一定以上の所得がある場合は2割負担となる。1割負担の利用者の介護費が高額である理由として、2割負担の利用者は高所得であり健康状態が比較的良い、外来受診など医療へのアクセスが良い、などの可能性が考えられる。
都市部において非都市部と比較して介護費が高い理由としては、都市部であるほど介護保険サービスへのアクセスが良いことが考えられる。また、都市部は家族による介護が難しい環境であることが多く、結果として介護保険サービスを利用する傾向となる可能性も考えられる。地域の要因として、介護施設が多い市町村と高額な介護費の関連に関しては、介護施設サービスの供給量は在宅サービスも含めた介護サービス全体の供給量を示していると考えられ、供給量が多くなることで介護費も高くなる可能性がある。
介護保険では家族内の介護などの「インフォーマルケア」に対しての支払いの制度はなく、今回の研究ではインフォーマルケアによる介護費は考慮されていない。今後の研究で、インフォーマルケアとフォーマルケアの両方を含めることで、介護に必要な総費用をより包括的に算出することが期待される。「研究によって得られた医療経済の観点からのエビデンスは、日本における持続可能な介護保険制度の仕組みづくりに貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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