医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナの感染モデル動物として、ハムスターが有用-東大医科研ほか

新型コロナの感染モデル動物として、ハムスターが有用-東大医科研ほか

読了時間:約 2分55秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年06月24日 PM12:30

ワクチンや治療薬開発のため、ヒトの症状を再現できる動物モデルの確立が必要

東京大学医科学研究所は6月23日、新型コロナウイルス感染症()の感染モデル動物として、ハムスターが有用であることを見出したと発表した。この研究は、同研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループが、、米国ウイスコンシン大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Proc Natl Acad Sci USA」(PNAS)のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより

2019年12月に中国の湖北省武漢市衛生健康委員会から、武漢市における非定型肺炎の集団発生の報告があり、新型コロナウイルスが原因ウイルスとして同定された。新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)は、現在も世界的規模での爆発的な流行が続いている。2020年6月15日現在、累計感染者数は世界全体で760万人を超え、そのうちおよそ43万人が亡くなっている。COVID-19の世界的大流行は健康被害のみならず、各国の社会経済活動にも甚大な影響をもたらしている。

新型コロナウイルスは、2003年に出現した重症急性呼吸器症候群()コロナウイルスと遺伝的に近縁であることがわかっているが、その基本性状についてはほとんど明らかにされていない。また、COVID-19に対する効果的な治療法や予防法は確立していない。COVID-19という病気の仕組みを理解し、それに対するワクチンや抗ウイルス剤を開発するには、ヒトの症状を再現できる動物モデルの確立が必要だ。ハムスターは、SARSコロナウイルスに感染することが先行研究で明らかにされている。そこで、研究グループは、患者から分離した新型コロナウイルスをハムスターの鼻腔内に接種し、同ウイルスがハムスターの呼吸器で増殖して肺炎などの呼吸器症状を引き起こすのかどうかを調べた。

ハムスターの呼吸器でよく増殖し肺病変は患者の病変と類似、再感染抵抗性も

まず、新型コロナウイルスを感染させたハムスターと非感染ハムスター(対照群)の体重を毎日測定したところ、対照群では体重が増加したのに対して、感染群では体重減少が認められた。また、このとき、ウイルスは肺などの呼吸器で効率よく増殖することもわかった。さらに、コンピュータ断層撮影法(CT)を用いて、感染動物の肺を解析したところ、COVID-19患者肺でみられたのと同様の病変が観察された。つまり、新型コロナウイルスに感染したハムスターは、COVID-19患者の肺炎に類似した病像を呈することが判明した。

次に、新型コロナウイルス感染症から回復したハムスターが、その後の再感染に対して抵抗性を示すかどうかを確認した。初感染から回復したハムスターに新型コロナウイルスを再感染させた後(初感染後20日目)、呼吸器におけるウイルス量を測定した。その結果、再感染させた群の呼吸器からはウイルスは全く検出されなかったが、対照として用いた初感染の群(対照群)の呼吸器からは高濃度のウイルスが検出された。これは、感染によってウイルスに対する抗体が体内で産生されれば、ウイルスが体内に入ってきても感染あるいは発症しないことを示すもの。すなわち、ワクチン接種により、感染時と同様の免疫応答を誘導することが出来れば、ウイルスの増殖ならびに発症を抑制する可能性が高いことが明らかになった。

感染経験ハムスターの血清投与でウイルス増殖抑制

加えて、研究グループは、新型コロナウイルス感染症から回復した動物の血清投与(回復期血清療法)が治療法として有効なのかどうかを確認。ハムスターに感染後1日目あるいは2日目に、回復期に採取した血清を投与したところ、肺などの呼吸器におけるウイルス増殖が顕著に抑制されることがわかった。このことは、回復期血清(あるいは血漿)に含まれるウイルスに対する抗体が患者の治療に有効であることを示唆している。

今回の研究から、新型コロナウイルスは、「ハムスターの肺などの呼吸器でよく増殖すること」「ハムスターに感染させると体重減少などの病原性を示すこと」「COVID-19患者の肺でみられた病変をハムスターの肺でも同様に引き起こすこと」がわかった。さらに、「新型コロナウイルスに一度感染したハムスターは、再感染に対して高い抵抗性を示すこと」「感染後であっても、回復期血清を投与すれば体内でのウイルス増殖が抑制されること」も判明した。

今回の結果は、COVID-19の感染モデル動物として、ハムスターが有用であることを示すもの。研究グループは、「ハムスターを動物モデルとして利用することで、本感染症の病態解明と治療法や予防法の開発が大きく進展することが期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大