成人期に再発繰り返す難治例も、HLA-DR/DQ以外の疾患感受性遺伝子を探索
神戸大学は6月19日、タンパク尿を防ぐ腎糸球体スリット膜の構成タンパク質であるネフリンの遺伝子「NPHS1」が、小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群の疾患感受性遺伝子であることを明らかにしたと発表した。これは同大大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の飯島一誠教授、野津寛大特命教授、山村智彦助教、長野智那特命助教、堀之内智子特命助教、および、国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト・戸山プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長、Xiaoyuan Jia特任研究員、星薬科大学微生物学教室の人見祐基特任講師らのグループが、ボストン小児病院腎臓内科のMatthew G. Sampson准教授、ソルボンヌ大学腎臓内科のPierre Ronco教授、デユーク大学医療センター小児科腎臓部門のRasheed Gbadegesin教授、ソウル大学小児病院小児科のHae Il Cheong教授、ウルサン医科大学生化学・分子生物学のKyuyong Song教授らとの国際共同研究によるもの。研究成果は、国際科学誌「Kidney International」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
小児ネフローゼ症候群は、小児の慢性腎疾患で最も頻度が高く、国内の小児10万人あたり年間6.49人(全国で約1,000人)がこの病気を発症する。尿中に大量のタンパク質が漏れ出て血液中のタンパク質が極端に少なくなる原因不明の難病で、小児慢性特定疾病および指定難病に指定されている。小児ネフローゼ症候群の80-90%は、ステロイドに反応し寛解となるステロイド感受性ネフローゼ症候群だが、その20%程度は成人期になっても再発を繰り返す難治例であり、病因・病態の解明と、その知見に基づく原因療法の開発が強く望まれている。
ステロイド感受性ネフローゼ症候群の大半は多因子疾患であり、何らかの遺伝的な素因(疾患感受性遺伝子)を持つ人に、感染症などの免疫学的な刺激が加わって発症すると考えられており、飯島教授らのこれまでの研究により、「HLA-DR/DQ」が疾患感受性遺伝子であることがわかっているが、HLA以外の疾患感受性遺伝子は明らかではない。
日本人の患者/健常者のGWAS、多人種の国際メタ解析からNPHS1を同定
研究グループは、全国の小児腎臓専門医の協力のもと、現在までに約1,300例の小児ネフローゼ症候群患者のゲノムDNAを収集。今回の研究で、そのうちの987例の小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群患者検体と日本人健常者コントロール検体3,206例を対象に、日本人に最適化された一塩基多型(SNP)アレイである「ジャポニカアレイ」を利用したGWASを行った。その結果、HLA-DR/DQ領域以外に19番染色体19q13.12のNPHS1-KIRREL2領域にゲノムワイド有意な関連を示すバリアント(多型)を同定した。
この領域から重要と考えられる複数のバリアントについて、韓国人、南アジア人、アフリカ人、欧州人、ヒスパニック人、マグリブ人(北西アフリカ人)の小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群患者(計1,063人)とそれぞれの民族に対応する健常成人(計1万9,729人)を対象に関連を検討したところ、韓国人、南アジア人、アフリカ人で有意な関連を認め、日本人コホートも含めた国際メタ解析で、NPHS1の複数のバリアントが有意な関連を持つことが明らかになった。
さらに、NPHS1の複数のバリアントと糸球体のNPHS1 mRNA発現の関連について検討したところ、これらのリスクバリアントをすべて有するハプロタイプを持つ染色体由来のNPHS1 mRNA発現が減少することから、これらのバリアントがNPHS1 mRNAの発現調節に関与することが判明した。
NPHS1はフィンランド型先天性ネフローゼ症候群の病因遺伝子
NPHS1は、タンパク尿を防ぐ腎糸球体スリット膜において最も重要な構成タンパク質であるネフリン(Nephrin)をコードする遺伝子であり、希少なメンデル遺伝病であるフィンランド型先天性ネフローゼ症候群の病因遺伝子としてもよく知られている。「研究成果は、ステロイド感受性ネフローゼ症候群の発症機序における遺伝学的理解を導くための重要なマイルストーンとなるとともに、腎臓病学におけるパラダイムシフトとなるものだ。今後、小児ネフローゼ症候群の発症機序の解明やその知見を応用した新たな治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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