「三密」を避ける科学的根拠、温湿度や人口密度と関連は?
名古屋工業大学は6月17日、新型コロナウイルスの感染拡大・収束について、県ごとにデータ解析を行い、ウイルスの拡大・収束期間および感染者数・死者数には、人口密度および気象条件が関与することがわかったと発表した。これは、同大大学院工学研究科電気・機械工学専攻・平田晃正教授(先端医用物理・情報工学研究センター長)、電気・機械工学専攻・Gomez Jose准教授、電気・機械工学専攻・安在大祐准教授、小寺紗千子特任助教らの研究グループによるものだ。
これまでに報告されている感染症に関する理論モデルでは、温湿度や人口密度などの関連性が十分考慮されていないものがほとんど。また、海外の研究でも単一の地域における事例解析が報告されているものの、地域のばらつきが大きく、かつ影響を与える要因が多く、感染者数の相違が何の要因により起因したものかがわかっていない。日本では、「三密」を避けるなど、感染拡大防止対策が要請されているものの、その科学的根拠の蓄積(裏付け、情報)が求められている。
画像はリリースより
感染拡大・収束期間は、人口密度と絶対湿度と強い関連
研究グループはまず、新型コロナウイルスに関する統計データを用いて感染拡大期間および収束期間がどの程度の長さなのかを分析した。県別の1日あたりの新規陽性者数の最大値が10人以上であった19の都府県を対象にし、検査日、検査結果などの1日あたりのばらつきの影響を緩和するため、7日間の移動平均を用いた。各県における感染拡大期間・収束期間を算出したのち、さまざまな因子と統計分析を行った。特に、感染拡大・収束期間が、どの要因(気象や国土、人口など)と密接な関係があるかに着目した。
その結果、感染拡大・収束期間は、これまでほとんど指摘されていなかった人口密度との関係が強いことが確認され、いわゆる「三密」の効果は人口密度で近似されることがわかった。さらに、インフルエンザなど別の感染症との関係の強さが述べられていた「絶対湿度」とも強い関係が示された。絶対湿度とは、空気中の乾き空気(全て水分を含まない空気)1kgに対する水蒸気の重量割合をいう。
そこで、人口密度と気温、絶対湿度の3変数を用いて多変量解析を実施。多変量解析で得られた数式からの推定値は、実際の拡大・収束期間とよく一致している。完全には一致しない理由として、3月頃の海外からの帰国者やクラスター発生などの影響が挙げられる。さらに、東京、大阪、愛知、福岡などへの通勤圏内である地域(例えば、神奈川、千葉、兵庫、京都、佐賀など)における拡大・縮小期間は、都市中心部の影響を受け、推定期間よりも長くなる傾向があることもわかった。
人口密度、高齢者の割合が高いと死亡者数は増加
また、新型コロナウイルスの罹患率についても、同様の検討を行った。緊急事態宣言が解除された2020年5月25日までの、対象都府県における累計感染者数、死亡者数を対象に、どの因子との関係が強いかを統計分析した。1日あたりの新規感染者数の最大値が10人以上、かつ死亡者数の最大値が4人以上の14都府県を対象とした。その結果、拡大・収束期間と同様、累積感染者数・死亡者数も人口密度の影響を受けることが明らかになった。また、累積感染者数を人口密度で正規化した場合、高齢者の占める割合、気温、絶対湿度との関係があることもわかった。人口密度、高齢者の割合、気温・絶対湿度の最大・最小値の6変数による多変量解析では、予測結果と実際の感染者数によい一致が得られた。
今回の結果は、人口密度に相当する「ソーシャルディスタンシング」の重要性を示唆するもの。また、高温多湿の条件になるとその拡大・収束期間および感染者数はやや減少する傾向にある。「新型コロナウイルスの第二波が懸念される中、さらには今後のパンデミックにおいて、人口密度および気象条件により予測結果を提供することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋工業大学 プレスリリース