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「非機械型」かつ「完全合成型」の人工膵臓デバイスを開発-東京医歯大ほか

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2020年06月18日 PM12:00

現在普及の人工膵臓には多くの課題

東京医科歯科大学は6月16日、グルコース応答性ゲルと血液透析用中空糸を融合したクローズドループ型人工膵臓デバイスを開発したと発表した。この研究は、同大学生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野の松元亮准教授と宮原裕二教授および名古屋大学環境医学研究所分子代謝医学分野の菅波孝祥教授らを中心とする研究グループが、、九州大学、ニプロ株式会社、株式会社ニコンシステムとの共同で行ったもの。研究成果は、「Communications Biology」のオンライン版に掲載されている。

糖尿病はさまざまな合併症を発症することから、医療費の増大のみならず、健康寿命の短縮、労働力逸失による経済的損失など、社会に大きな影響を及ぼす。厳格な血糖コントロールが合併症の予防戦略の中核をなすが、安全かつ長期的に有効な治療法は未だ確立しておらず、糖尿病合併症も依然として増加している。糖尿病合併症を効果的に予防するためには、平均血糖値の正常化のみでは不十分であり、日内変動など急性の血糖値変動を抑制することで合併症の発症が予防できることを示すエビデンスが、近年蓄積している。また、この目的のためには「クローズドループ型」と呼ばれる、血糖値変動のフィードバック機能のあるインスリン供給デバイス()を用いた治療の有効性が報告されている。

しかし、現在普及している人工膵臓は機械型のものであり、患者に及ぼす身体的・心理的負担、機械特有の補正・メンテナンスの必要性、高額である点など多くの課題がある。そこで、非機械型の人工膵臓の開発研究が盛んに行われてきた。従来からグルコースオキシダーゼやレクチン等のタンパク質を基材とするアプローチが主流だったが、これらはタンパク質の変性に伴う不安定性や毒性が不可避であり、未だ実用化されたものはない。また、これらのシステムでは数時間程度の持続性しか得られないため、上記の日内変動に対する適応性を調べることがそもそも不可能な状況にあった。

開発した人工膵臓デバイスで、モデルラットの平均血糖値と日内変動指標を劇的に改善

この課題に対して研究グループでは、タンパク質を一切使用しない、完全合成材料のみによるアプローチを進めてきた。グルコースと可逆的に結合するボロン酸を適切な高分子ゲルネットワークに組み込むことで、血糖値変化に応じたゲルの含水率変化と同期したインスリン放出量の制御が可能となる。そして、完全合成系であるがゆえの高い安定性、低免疫原性、拡散制御方式をとることで極めて迅速な応答性(秒単位)と徐放性(週単位)を両立するなど、既存アプローチでは得られないいくつもの利点がある。今回の研究では、まずゲルの化学構造を改変し、グルコース応答時の温度依存性を抑制することで、安全性を格段に高めた材料技術を開発。さらに、デバイスの機能を定量的に再現する数理モデルを構築し、糖尿病モデルラットの治療に最適なデバイス設計の指針を得るとともに、日内変動のような急性の血糖変動抑制への適応性を確認した。以上の検討結果を踏まえ、「中空糸融合型」人工膵臓デバイスを作成した。

糖尿病モデルラットを用いた実験の結果、当該デバイスが1週間以上の持続性を持って糖代謝を良好に制御することを確認。さらに、平均血糖値を正常化するのみならず、低血糖を引き起こすことなく、日内変動指標を大幅に改善することを明らかにした。中空糸構造による大きな比表面積(放出面積)の確保と、当該ゲルによる拡散制御方式に特徴的な「迅速な応答性と徐放性の両立」とが相乗的に作用し、日内変動の改善効果を発揮するものと考えられるという。

今回の研究は、「エレクトロニクスフリー」なクローズドループ型人工膵臓デバイスにより、日単位での血糖値変動の改善効果を実証した初めての成果。糖尿病におけるアンメットメディカルニーズ(長期的な血糖管理、低血糖の回避、患者負担の軽減)の解決に加え、「機械型」のものと比べて極めて安価なため使い捨てとすることも可能だ。従来、インスリンデバイスは主に重症の1型糖尿病を対象としてきたが、このデバイスが臨床応用されると、2型糖尿病も含めたインスリン療法の早期導入が促進され、糖尿病治療戦略が大きく変化する可能性がある。特に簡便性や安全性、低コスト性から、発展途上国、高齢者、要介護者等これまで普及が困難であった患者に対しても新たな治療オプションを提供する可能性を秘めている。研究グループは、「急性の血糖値変動に対する応答に優れていることから、食後高血糖や血糖値の日内変動など血糖変動(血糖値スパイク)を抑えることにより、長期的な合併症の予防効果も期待できる」と、述べている。

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