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虚血性心疾患の新規感受性座位を3つ発見、発症に影響する臓器の人種差も判明-理研ほか

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2020年06月17日 PM12:00

日本人対象のゲノム研究は小規模にとどまり、人種差も未解明だった

(理研)は6月15日、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)の発症に関わる新たな疾患感受性座位を発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チームの伊藤薫チームリーダー、松永紘研修生、ゲノム解析応用研究チームの鎌谷洋一郎客員主管研究員、東京大学大学院医学系研究科循環器内科学の小室一成教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation: Genomic and Precision Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより

虚血性心疾患は、治療法や予防法が進歩しているにも関わらず、世界において主要な死因の1つであり、その有病率は人種によって異なることが知られている。現在、日本人の有病率は、食生活が欧米化してきたことにより増加傾向にあるが、欧米人の有病率と比べるとまだ値が低い。この違いの理由として、発症には環境要因だけでなく遺伝要因も関与していることが示唆される。

虚血性心疾患のように多くの遺伝子が発症に関与する疾患の感受性座位を調べるには、ゲノムワイド関連解析(GWAS)という統計的な手法が有効であり、これまでに150個以上の座位が報告されてきた。これらの座位には、疫学研究により危険因子と報告されている高血圧や脂質異常症、糖尿病に関わる遺伝子だけでなく、炎症や血管収縮などに関わる遺伝子も含まれている。しかし、過去の研究の大部分は欧米人を対象にしたものであり、日本人を対象にした研究は小規模にとどまっていた。また、発症に関わる遺伝要因の人種差についても明らかになっていなかった。

5万人の日本人集団と34万人の欧米人集団で解析し、新規3領域を発見

今回、研究グループはまず、、OACIS Study、、いわて東北メディカル・メガバンク、 Studyで収集された、合計約5万人におよぶ日本人集団の遺伝情報を用いて、2個のGWASを行い、2つの結果のばらつきを排除するためメタ解析を実施。その結果、虚血性心疾患の発症に関わる18領域の疾患感受性座位が同定され、そのうち1領域は新たな座位だった。

さらに、この日本人集団のGWASの結果と約34万人の欧米人集団で実施されたGWASの結果を、人種横断的なメタ解析により統合したところ、新たな3領域を含む76領域の疾患感受性座位が同定された。ここで、今回日本人集団で同定された新たな1領域は、人種横断的なメタ解析で同定された新たな3領域のうちの1つと共通だった。

次に、新たに発見された3領域の生物学的な役割を検討したところ、2領域(CTSS遺伝子、RDX-FDX1遺伝子)は免疫系を介した動脈硬化の進展に、残りの1領域(WDR11-FGR2遺伝子)は虚血性心疾患の危険因子の一つである脂質系に影響することが示された。また、虚血性心疾患の発症に関わる生物学的な機序を検討したところ、脂質代謝に関わる生物学的な経路が発症に最も関連することがわかった。さらに、発症に大きく影響する臓器・組織を調べたところ、脂肪組織、動脈、副腎などが検出された。副腎は、血圧調整や血糖値の調整などに関わる内分泌系の臓器であり、これらは、高血圧や糖尿病、脂質異常症が虚血性心疾患の危険因子であることを裏付ける結果と言える。

発症に強く影響する臓器は日本人では副腎、欧米人では脂肪や動脈

最後に、日本人集団と欧米人集団において、虚血性心疾患の発症に関わる遺伝要因に人種差があるかどうかを調べるために、人種横断的なメタ解析で得られた76領域に関して、心筋梗塞の発症に対する影響を比較。その結果、発症への影響は大部分の領域で同等であったものの、一部の領域では違いが見られた。さらに、2つの集団で発症に関わる臓器・組織を調べたところ、日本人集団では副腎の影響が強く、欧米人集団では脂肪組織や動脈の影響が強いと判明。この結果から、虚血性心疾患の発症にも遺伝要因に人種差があることが明らかになった。

今回の研究成果は、虚血性心疾患の発症に影響する生物学的な機序の解明や遺伝要因の人種差の理解への貢献が期待できるもの。虚血性心疾患は、発症を予防することが非常に重要だ。近年ではGWASの結果を用いて、各個人の遺伝要因によるリスクをスコア化することが試みられている。研究グループは、「今後、GWASの研究をさらに推進することで、遺伝要因のリスクの精度も向上し、個別化医療の実現につながると期待できる」と、述べている。

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