ICD-10における「気道閉塞を生じた食物の誤嚥」による死亡の特徴を解析
筑波大学は6月11日、日本の死因統計である人口動態調査死亡票のデータを、厚生労働省の許可を得て2次的に活用し、国際疾病分類第10版(ICD-10)における「気道閉塞を生じた食物の誤嚥(W79)」による死亡(食物の誤嚥による窒息死)の特徴を解析し、その結果を発表した。この研究は、同大医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授、岩上将夫助教、谷口雄大・同大学院博士課程1年らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」でオンライン掲載されている。
画像はリリースより
加齢とともに人間の嚥下機能は低下し、食物の誤嚥による窒息も起こりやすくなる。急速に高齢化が進む中、食物の誤嚥による窒息の増加が懸念される。
今回、研究グループは、人口動態調査死亡票のデータ(2006〜2016年分)を2次的に活用し、研究を実施。ICD-10に従い、食物の誤嚥による窒息死とされた5万2,366人を解析対象とした。解析では、食物の誤嚥による窒息死について、性別、年齢、発生場所、死亡年月日を分析し、標準化死亡比を用いて都道府県ごとの人口の年齢構成の違いを調整し、食物の誤嚥による窒息死の発生割合を都道府県間で比較した。
75歳以上の後期高齢者に多く、発生場所は家、発生時期は1月1〜3日に特に多い
解析対象5万2,366人(年齢の中央値:82歳、男性割合:53%)のうち、57%(2万9,777/5万2,366)が家で、18%(9,488/5万2,366)は老人ホーム等の居住施設で発生していた。発生場所に占める居住施設の割合は年齢とともに上昇し、65〜74歳では8.4%(1,183/1万4,148)、75〜84歳では16%(2,595/1万6,513)、85歳以上では26%(5,710/2万1,705)だった。
食物の誤嚥による窒息死数は毎年おおむね4,000人台で推移していた。発生割合は75〜84歳では10万人当たり16.2人(2006年)から12.1人(2016年)へと、85歳以上では10万人当たり53.5人(2008年)から43.6人(2016年)へ減少していたという。
2006〜2016年の合計で、暦日の中で最も死亡数が多かったのは1月1日、次いで1月2日、1月3日だった。標準化死亡比は、新潟県で最大(1.38)、京都府で最小(0.60)だった。以上の結果より、食物の誤嚥による窒息死が75歳以上の後期高齢者に多く、発生場所としては家、発生時期としては1月1〜3日に特に多いことが明らかになった。原因食物の種類は今回用いたデータに含まれていないが、日本では正月に餅を食する習慣があり、餅が原因となっている可能性が高いと考えられる。
高齢者への注意喚起、特に新年に行うことが望まれる
研究グループは、今回の研究について、「個々の誤嚥を引き起こした原因の食物を明らかにできていないなど、研究上の限界がある」としつつ、「食物の誤嚥による窒息死が75歳以上の後期高齢者に多く、また場所としては家、時期としては1月1〜3日に多い実態を全国規模で明らかにしたことは意義深い」と述べている。
また、死亡数が毎年おおむね4,000人台で推移してきた一方、75歳以上の人口あたりの発生割合が近年減少傾向であることについては、「注目に値する」としている。因果関係の検討は今後必要だが、近年、行政やマスメディアが食物の誤嚥による窒息の危険について広報していることから、市民の啓発が徐々に進んでいる可能性について触れた。
今後、高齢化の進行とともに食物の誤嚥による窒息は増加することが懸念されるとし、高齢者に対して、特に新年に注意を喚起していくことが望まれる、としている。
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