これまでのデータは、現代とは生活習慣・水準などが大きく異なる1950年代の研究調査に基づいたもの
東京医科歯科大学は6月12日、女性の健康情報サービス「ルナルナ」を用いて日本人女性31万人、600万月経周期のビッグデータを解析し、月経周期や基礎体温が年齢により変化することを明らかにしたと発表した。これは、同大周産・女性診療科 辰巳嵩征助教(茨城県小児周産期地域医療学講座)と国立成育医療研究センターの分子内分泌研究部 鳴海覚志室長、同・社会医学研究部 森崎菜穂室長、三瓶舞紀子研究員らと、株式会社エムティーアイの共同研究によるもの。研究成果は、産婦人科の国際医学誌「Obstetrics & Gynecology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの月経周期や基礎体温はホルモンによって制御されている。また、基礎体温は排卵が行われた後に分泌される女性ホルモンであるプロゲステロンの作用を受けて上昇するため、基礎体温を毎日測定することで排卵しているかどうかを推測できる。
現在広く知られている月経周期や基礎体温の平均値や個人差、年齢変化に関する知識は、1950年代の研究調査に基づいたもの。これらの知見が得られた時代の環境(食生活・生活習慣・教育水準)は現代とは大きく異なり、現代の日本人女性にとって基盤となるようなデータは今まで存在しなかった。
月経周期と基礎体温の年齢による変化のほか、季節や天候が与える影響も判明
今回研究チームは、ルナルナを通じて記録された日本人女性31万人、600万月経周期のビッグデータを解析し、月経周期、基礎体温と年齢、季節の関係を調査した。また、均一な人種背景・生活習慣・教育水準を持ちながら、国土が南北に長い日本の特徴を活かして、気候と月経周期、基礎体温の関係を検討した。解析により得られた知見は以下の通り。
(1)月経周期と基礎体温の年齢変化
研究対象者の平均月経周期は10代から20代にかけて徐々に長くなり、23歳で平均30.7日と最も長くなった。その後、30代から40代前半にかけ徐々に短縮し、45歳で平均27.3日と最も短くなり、以降は再び長くなった。基礎体温について、卵胞期の平均体温は年齢変化がなく36.4度でほぼ一定だった。一方、黄体期の平均体温は10代から20代後半にかけて徐々に上昇し、29歳で36.7度まで上昇した後、30代では安定し、42歳を過ぎると下降することが判明。また、地域ごとの気候が月経周期や基礎体温へ与える影響を加味した、より厳密な検討を一般化推定方程式と呼ばれる統計手法で行い、これらの年齢変化の妥当性を確認した。
(2)月経周期、基礎体温と季節の関係
月経周期は季節による変動はなかったが、基礎体温は卵胞期・黄体期ともに季節変動を示し、夏に高く、冬に低くなることが明らかになった。
(3)気温・降水量・日照時間と基礎体温
基礎体温の季節変動に関わる要素をより厳密に調べる目的で、北海道と沖縄の気温・降水量・日照時間と、それぞれに居住する女性の基礎体温との関連を重回帰分析で調べた。その結果、気温と基礎体温の間に相関関係があることがわかった。
自身の月経周期や基礎体温が標準的かを知り、受診のタイミングを知る上で役立つ可能性
現代の女性をとりまく環境やライフスタイルは1950年代と比べて大きく変化し、初婚年齢は29歳を超え、第1子を出産する年齢も上昇している。今回の研究により、卵巣の中の卵子の個数が年齢とともに減っていくように、月経周期も変化していくことが明らかにされた。
また、日本人女性の月経周期や基礎体温について、年齢を考慮した平均値と個人差の幅が初めて示された。これらのデータは、各々の女性が自分の月経周期・基礎体温の状態が標準的なのか、あるいは標準から離れているのかを考える上で目安にできるという。このことは、過剰な不安を取り除き、また、月経不順や妊娠しにくさについての医療受診を適切なタイミングで行う上で役立つことが期待される。
現在、研究チームは月経周期により詳しい個別データと生物学的データを結びつけた「ユーザー参加型研究」を行っており、女性の社会経済的状況が心や身体の健康を通して、月経不順や妊娠にどのような影響を与えるかを調査中だという。「今後も、女性が活躍しやすく子どもを産みやすい社会を実現するために役立つ質の高いエビデンスの創出を目指す」と、研究チームは述べている。
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