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高速培養可能で3Dオルガノイドの特徴をもつ「2.5次元培養細胞」の作出に成功-東京農工大

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2020年06月12日 AM11:30

3Dはコスト高・増殖スピード遅く、2Dはコスト低・増殖スピード速いが患者由来のがん組織と性質が乖離

東京農工大学は6月10日、膀胱がんの3次元(3D)オルガノイド培養組織から細胞を分離し、新たな培養液成分を用いてゲルフリーの2次元環境下(平面上)で高速培養が可能かつ、3Dオルガノイド培養組織の特徴を維持する新たな2.5次元培養細胞()を作出することに成功したと発表した。これは、同大大学院共同獣医学専攻のアミラ・アブゴマ大学院生(博士課程1年)、同大農学研究院の佐々木一昭准教授、臼井達哉特任講師らの研究チームによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

3Dオルガノイド培養法は、臓器から単離した上皮細胞をゲルと混合し、幹細胞性を高める因子を含む特殊な培地で培養することで3次元の上皮組織構造を培養ディッシュ上で再現できる方法として開発され、がんの個別化医療や創薬への応用が進められている。

研究チームはこれまでに膀胱がん罹患犬の尿サンプルを用いて非侵襲的に3D膀胱がんオルガノイドを培養する技術を開発し、作製したオルガノイドが生体内の膀胱がんの特徴を3次元的に再現し、免疫不全マウス体内での腫瘍の再形成能試験や、病気にかかった動物個々の抗がん剤感受性試験へ応用可能であることを明らかにしてきた。3Dオルガノイド培養法は、患者組織の多様性を再現できる一方で、培養のコストが非常に高いことや、ゲルを用いるため煩雑な作業が多いこと、細胞の増殖スピードが通常の細胞培養に比べてかなり遅いことが課題となっている。

従来の2次元(2D)細胞株を用いた実験では、細胞の増殖スピードが速く、安価で扱いやすいという利点があるが、患者由来のがん組織と性質が乖離してしまっているため、得られた研究成果を臨床現場に還元していくことが困難だった。また、細胞株として樹立可能な系統が限られており、ごく一部の患者の組織から突然変異的に増殖した細胞を増やすことで作製されていた。

2.5D膀胱がんオルガノイドでは、膀胱がんの幹細胞マーカー発現パターンが3D膀胱がんオルガノイドに近似

研究チームは、3D膀胱がんオルガノイドから細胞を分離し、新たな培養液成分を用いて平面上で培養(2次元化)することで、各患畜の3次元培養細胞の特徴を維持し、作製効率が高い新たな2次元細胞(2.5Dオルガノイド)として培養することができるのではないかとの仮説を立てた。これを立証するために、さまざまな系統の3D膀胱がんオルガノイドを用いて、その性質(組織特異的マーカー発現、幹細胞マーカー発現、各種抗がん剤に対する反応性、腫瘍再形成能など)を維持可能な培養液の組成を探索し、新たな培養方法(2.5D膀胱がんオルガノイド培養法)を開発した(特許出願中)。作製した2.5D膀胱がんオルガノイドは、3D膀胱がんオルガノイドと比較して高い増殖スピードを持ちながら、尿路上皮細胞マーカーの発現や、in vivoでの腫瘍形成能などの3D膀胱がんオルガノイドの性質が維持されることが示された。また、作製した2.5D膀胱がんオルガノイドは、再び3D膀胱がんオルガノイドとして培養可能であることや、膀胱がんの幹細胞マーカー発現のパターンが3D膀胱がんオルガノイドに近いことがわかったという。

今回の研究成果により、培養液の組成を改変することで、ゲルフリーの環境下で3D膀胱がんオルガノイドの性質を維持する2.5D膀胱がんオルガノイドが作出可能であることが示された。同成果は、創薬スクリーニング試験における培養コストの大幅な削減、培養作業の効率化に貢献する可能性が考えられる。研究グループは、「さらに、培養成分を調整することによって、ヒトやマウスを含めたさまざまなオルガノイドや細胞株の作製が困難ながん種への活用などの波及効果が期待される」と、述べている。

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