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狙った細菌を選択的に殺菌する新しい抗菌薬を開発、耐性菌問題解決に期待-自治医大

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2020年06月11日 PM12:30

耐性菌のパンデミックに備え、新しい殺菌メカニズムの抗菌薬が求められている

(AMED)は6月10日、RNA標的型CRISPR-Cas()の遺伝子群をバクテリオファージに搭載することで、特定の遺伝子を持つ細菌を殺菌できる新しい殺菌技術を開発したと発表した。これは、自治医科大学医学部感染免疫学講座細菌学部門の崔龍洙教授、氣駕恒太朗講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

人類はこれまでに数多くの抗菌薬を開発し、さまざまな細菌感染症を克服してきた。しかし、抗菌薬の使用から間もなく薬剤耐性菌が報告され始め、今や耐性菌は世界中至るところに存在している。すでに臨床で使用されているほぼ全ての抗菌薬に対して耐性菌は出現している。一方で、新しい抗菌薬の開発は進んでおらず、薬剤耐性菌感染症の治療はますます困難になっている。WHO(世界保健機関)は、このような状況が続くと2050年には耐性菌によって年間1000万人の死者が出ると警告しており、薬剤耐性菌問題は緊急に解決しなければならない課題となっている。この危機的状況を打開するため、日本を含め、世界各国が薬剤耐性対策アクションプランを策定し、耐性菌に対する新たな予防・診断・治療法の開発を推進している。また、昨今の新型コロナウイルスのように耐性菌もパンデミックを起こす恐れがあるため、既存の抗菌薬とは異なるメカニズムで殺菌できる抗菌薬や、耐性菌を簡易に検出できる診断システムの開発が求められている。

Cas13aの塩基配列依存性を利用して、標的細菌特異的抗菌薬の開発に成功

今回、研究グループは、薬剤耐性遺伝子を認識するように設計した「CRISPR-Cas13a」をバクテリオファージ(ファージ)に搭載することで、薬剤耐性菌を選択的に殺菌できる抗菌薬の開発を目指した。CRISPR-Cas13aは2016年に機能が解明されたRNA分解形のリボ核タンパク質複合体。CRISPR-Cas13aのコンポーネント「crRNA(CRISPR )」が標的RNA配列を認識すると、RNA分解能酵素「Cas13a」が活性化され、宿主細菌のRNAを無差別に切断することで細菌の増殖を抑制する。

まず、Cas13aがどの程度増殖阻害を引き起こすのかを調べたところ、既報通りCas13aを発現した細菌では緩やかな増殖遅延が確認された。一方で、標的遺伝子に対するcrRNA配列を最適化すると、Cas13aは強力な増殖抑制作用を発揮すること、さらには宿主細菌の細胞死を引き起こすことがわかった。これらの結果から、CRISPR-Cas13aは設計次第で強力な殺菌剤として使用できることが示唆された。

Cas13aは非常に強い殺菌効果を示すことが明らかになったため、次に、その抗菌活性を利用した殺菌剤の構築を試みた。例えばCRISPR-Cas13aの標的遺伝子を耐性遺伝子に設定すれば、薬剤耐性菌を選択的に殺菌できる。また、標的遺伝子を毒素産生遺伝子に設定すれば、毒素産生菌を選択的に殺菌できる。つまり、狙った細菌を選択的に殺菌できるというユニークな殺菌剤が構築できる。しかし、殺菌剤として使用するには、CRISPR-Cas13aを対象細菌内に導入する必要があった。そこで研究グループは、CRISPR-Cas13aのデリバリーシステムとしてファージを利用。ファージは細菌に感染するウイルスで、自身の核酸を宿主細菌に注入することができる。今回、ファージのカプシド内にCRISPR-Cas13aを封入し、標的細菌を選択的に殺菌できる新規抗菌製剤の作製に成功、「抗菌カプシド」と名付けた。

抗菌治療、細菌叢の編集、細菌遺伝子検査に応用可能、安全・簡便・安価

研究グループは、以下3つの医学分野で抗菌カプシドの応用可能性を検討した。

(1)抗菌カプシドを利用した抗菌治療
抗菌カプシドは標的遺伝子を保有する細菌を選択的に殺菌できるため、標的細菌を選択的に殺菌できる抗菌治療薬として使用できる可能性が考えられた。実際に、カルバペネム耐性遺伝子のblaIMP-1を標的とした抗菌カプシドは、blaIMP-1発現株を感染させたハチノスツヅリガの幼虫の致死率を有意に下げることが確認された。この治療薬は標的細菌に選択的に作用するため、細菌叢のバランスを乱さない抗菌治療が可能になる。また、DNA標的型の抗菌カプシド(例えばCas9抗菌カプシド)は、プラスミド(細菌の生存に必須ではないDNA)上の遺伝子を標的とした場合に殺菌効果が無く、さらに標的遺伝子を切断することにより細菌に予期せぬ変異を引き起こす恐れがあった。そのため、Cas13aはCas9よりも安全に使用できる可能性が示唆された。

(2)抗菌カプシドを利用した細菌叢の編集
生体細菌叢の乱れがさまざまな疾病に関わっていることが明らかになり、その関連研究は国内外問わず活発に行われている。しかし現在、特定の疾患の起因菌を選択的に取り除く方法がないため、その疾病に関連する細菌の同定や、起因菌に対する抗菌治療は困難だ。抗菌カプシドは、細菌叢から狙った細菌のみを取り除くことができるため、この問題の解決に応用できることが考えられた。blaIMP-1を標的にする抗菌カプシドと、コリスチン耐性遺伝子mcr-2を標的とする抗菌カプシドを合成して検証したところ、3種類の大腸菌(野生型、blaIMP-1発現細菌、mcr-2発現細菌)を混合した細菌叢から標的細菌のみを減少させることに成功した。

(3)抗菌カプシドを利用した細菌の遺伝子検査
抗菌カプシドは「標的遺伝子を保有する細菌を選択的に殺菌できる」ということは、裏を返せば、「殺菌される細菌は標的遺伝子を保有している」ことを意味する。このアイデアを利用し、細菌における遺伝子の保有状況を判別するシステムを構築。実際に、「Big5」と呼ばれるカルバペネム耐性遺伝子(blaIMP、blaOXA、blaVIM、blaNDM、blaKPC)それぞれを標的とした抗菌カプシドを設計したところ、それぞれの抗菌カプシドが標的の細菌を選択的に殺菌することが確認された。この結果から、細菌の遺伝子の保有状況を視覚的に判別もできた。さらに、グラム陰性菌だけでなく、グラム陽性菌の黄色ブドウ球菌でも遺伝子特異的殺菌()ができることを確認。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌()のメチシリン耐性遺伝子「mecA」を標的として殺菌作用が確認できたため、臨床で問題となっているMRSA対策(検出、治療)への応用が期待される。この細菌遺伝子検査は、検査対象細菌に抗菌カプシドを添加して培養するだけで目的遺伝子の有無が判定できるため非常に簡便。現在、臨床応用に向け、国内の企業と共同開発を行っているという。

研究グループは、「本抗菌薬は、ファージ由来のカプシドにCas13aを搭載した抗菌カプシド()であり、未知の遺伝子を含まず、自己増殖もしないため、安全性の高い生物製剤として実用化しやすいことが期待される」と、述べている。

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