再発予防目的の術後補助化学療法では患者ごとに薬の効果や副作用に差
国立がん研究センターは6月10日、大腸がん(結腸・直腸がん)の外科治療を予定している患者を対象に、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を検査する技術(リキッドバイオプシー)によるがん個別化医療の実現を目指すプロジェクト「CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)」を開始したと発表した。これは、国内外約150施設の共同プロジェクトで、2020年5月8日から、根治的外科治療可能の結腸・直腸がんを対象としたレジストリ研究(GALAXY試験)の登録を開始している。
画像はリリースより
従来、大腸がんの手術後には、病期から推定される再発リスクに応じて、再発を予防する目的で術後補助化学療法が標準的に行われてきた。しかし患者によって薬の効果や副作用に違いがあり、特に末梢神経障害(手足のしびれ)が後遺症として残ることが問題だった。ステージに基づく再発リスクの推定だけでは、本来必要がない患者にも再発リスクの高い患者と同じ治療が実施されているのが現状だ。近年、より精密にがんの再発リスクを推定する手段として、採取した血液からctDNAを解析し、診断治療へ応用する「リキッドバイオプシー」の研究開発が進んでいる。
同センターは2015年2月に、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan」を立ち上げ、切除困難な固形がん患者を対象に、がん遺伝子異常を調べるプロジェクトに取り組んできた。現在、全国から200を超える医療機関と17社の製薬企業や診断薬企業が参画している。今回新たにSCRUM-Japanの基盤を活用し、国内外約150施設の協力を得て、外科治療が行われる大腸がん患者に対し、最適な医療を提供するための新しいプロジェクトとしてCIRCULATE-Japanを立ち上げた。
切除腫瘍の解析データから患者ごとの遺伝子パネルを作製、定期採血で異常の有無を検査
同プロジェクトでは、根治的外科治療を予定しているステージ2から4を含む大腸がん患者約2,500人を対象に、術後2年間、リキッドバイオプシーを用いた再発のモニタリング検査を行う。検査には、米Natera社が開発した超高感度遺伝子解析技術「Signatera」アッセイが用いられる。手術で取り出した腫瘍組織を用いた全エクソーム解析の結果をもとに、患者オリジナルの遺伝子パネルを作製。その後、術後1か月時点から定期的に血液を採取し、患者毎のオリジナル遺伝子パネルを用いて、血液中のがん遺伝子異常の有無を調べる。
さらに、術後1か月時点でがん遺伝子の異常が検出されないステージ2から3の患者1,240人を対象に、従来の標準的治療である術後補助化学療法群と経過観察群とを比較する第3相試験(VEGA試験)も同時に登録を開始する。プロジェクトと臨床試験を連動させることで、同時並行でより多くの患者の新しい診断治療法の開発を可能にする。
この大規模かつ複雑な臨床試験実施体制の構築には、アカデミアと研究支援企業との緊密な連携が不可欠だ。長期間の追跡によって得られた貴重な臨床・遺伝子情報の品質担保とプロジェクトの円滑な推進のため、同センターは、株式会社EPSホールディングスと共同研究契約を締結。この新しい臨床研究開発基盤に相応しい新たな支援体制の構築を目指す。
CURCULATE-Japanを通して、リキッドバイオプシーによる再発リスク評価精度とその臨床的有用性が示されれば、身体に負担の少ない採血で繰り返し測定可能による、早期のがん再発につながることが期待される。同センター東病院の大津敦院長は、「CURCULATE-Japanは最新のリキッドバイオプシー技術を用いて、真に抗がん剤による術後補助化学療法が必要な患者さんに適切な治療法を選別する画期的な研究であり、がん治療全体のパラダイムシフトを日本が世界をリードして実現することが期待される」と、述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース