nrTMSは、頭蓋内に電場を誘導させ、解剖学的により正確に神経を刺激する方法
名古屋大学は6月4日、ナビゲーション下反復経頭蓋磁気刺激法(navigated repetitive transcranial magnetic stimulation: nrTMS)を用いて、覚醒下手術前の言語機能診断をする方法を開発したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科脳神経外科学の本村和也准教授、夏目敦至准教授、東名古屋病院脳神経外科の竹内裕喜医長、信州大学医学部保健学科理学療法学専攻の野嶌一平准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
言語・運動機能および高次脳機能に関わる脳の部位にできる脳腫瘍に対して、その脳機能を温存しながら安全に腫瘍摘出を行うため、手術の途中で患者に目を覚ましてもらい、手を動かしたり、話しをしたりしながら、脳腫瘍を摘出する「覚醒下手術」が行われる。名古屋大学医学部附属病院脳神経外科では、これまで220例を超える覚醒下手術の経験があり、その実績を認められている。覚醒下手術前により正確な脳機能の情報を把握できれば、より安全な覚醒下手術を行うことができるが、負担が少なくかつ精度の高い、術前言語機能診断法は未だない。
nrTMSとは、頭蓋内に電場を誘導させることにより、神経を刺激する方法。コイルに流れた電流により発生した磁場が、骨や軟部組織を通過し、生体組織に電流を誘導し、介在ニューロンを刺激することで錐体細胞を興奮させる。さらに高精度ナビゲーションシステムを用いることで、解剖学的により正確な刺激が行えるようになった。今回、次世代医療機器であるnrTMSを用いて、覚醒下手術を受ける患者に対して、脳のどの部位が言語機能を司っているかどうかを調べる、前向き臨床研究を行った。覚醒下手術前の言語機能の評価方法として、負担が少なくかつ正確に、言語機能の場所を見つけることかできるかどうかを調べることを目的とした。
左大脳半球の脳腫瘍患者において、脳全領域で感度81.6%、特異度59.6%
覚醒下手術前の言語機能評価として、nrTMSを行った脳腫瘍患者61人に対して、nrTMSと覚醒下手術中の脳機能マッピングの結果から、nrTMSの言語領域同定の精度を解析し、その精度に影響を与える因子について検討した。左大脳半球の脳腫瘍患者においては、nrTMSは、脳全領域に対して感度81.6%、特異度59.6%、陽性反応的中度78.5%、陰性反応的中度64.1%で言語機能領域を同定できた。
また、サブグループ解析から、解剖学的言語領域が腫瘍に含まれない症例では、含まれる症例と比較し、感度90.9%、特異度72%、陽性反応的中度86.5%、陰性反応的中度80.0%と有意に高い精度を示した。さらにROC解析によると、解剖学的言語領域が腫瘍に含まれない症例でのAUC:0.81(95%CI:0.74–0.88)は、含まれる症例のAUC:0.58(95%CI:0.50–0.67)と比較し、有意に高いという結果が得られた。年齢(40歳以上もしくは40歳未満)、組織学的悪性度(悪性もしくは低悪性度)、腫瘍体積(40cm3以上もしくは40cm3未満)の因子を検討した結果、有意差は認められなかった。
「今後はさらに、言語機能だけでなく高次脳機能を含めた脳内のネットワークの解析を行っていく予定。また、覚醒下手術を行わなくても、nrTMSを用いることで言語機能の温存を可能とする、新たな脳腫瘍手術法の発展につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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