動物における神経回路レベルでの個体差は、ほとんど明らかにされておらず
富山大学は6月4日、大脳基底部のストレスに反応する神経回路の個体差を明らかにしたと発表した。これは、同大大学院・生命融合科学教育部・認知情動脳科学専攻の大学院生・兼本宗則(現国立研究開発法人・国立長寿医療研究センター・老化機構研究部・博士研究員)と学術研究部(医学系)解剖学・神経科学・教授の一條裕之らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neural Circuits」に掲載されている。
画像はリリースより
同じ環境においても、一人ひとりが感じることや考えることは異なる。これは、脳の情報処理に個体差があるためと考えられる。動物における脳の構造と機能の個体差は、扁桃体などの部位で報告されているが、神経回路レベルでの細かな個体差は調べられておらず、扁桃体以外の脳部位における個体差の研究はほとんどなかった。また、脳の個体差が、異なる情動や行動を表出する機構を示唆するアイデアは乏しいものだった。
最初期遺伝子Zif268/Egr1陽性の神経細胞クラスター「SLEA-zNC」を発見
研究グループは今回、マウスにおいてストレス刺激に反応する神経細胞を、最初期遺伝子の発現によって探索し、大脳基底部のレンズ核下拡大扁桃体(sublenticular extended amygdala, SLEA)という領域に、GABA作動性神経細胞と、その他の細胞から構成される最初期遺伝子Zif268/Egr1陽性の神経細胞クラスターを新しく発見し、「SLEA-zNC(sublenticular extended amygdalar Zif268/Egr1-expressing neuronal cluster)」と名付けた。SLEA-zNCはストレス刺激に応じて細胞の活動性が増大し、その反応が抗不安薬のジアゼパムによって抑制されたので、ストレス情報処理に関わる神経回路に参加していると考えられる。
次に、異なった時間経過で発現する2つの最初期遺伝子(Zif268/Egr1とcFos)を利用してSLEA-zNCの活動の時間経過を解析し、1個体におけるSLEA-zNCの位置が不変であることを示した。さらに、その位置を脳座標の中でマッピングし、SLEA-zNCが個体ごとに異なる場所にあることを示した。個体は同じ神経細胞クラスターを利用して情報処理を行っているが、個体ごとにクラスターの配置が異なっている。
今回の研究結果により、個体ごとに情報処理回路の長さが異なり、その長さの相違が情報処理の効率に影響することが示唆される。ストレス情報処理回路における情報処理効率の違いは、個体の生存に深く影響すると考えられる。SLEA-zNCの位置の個体差がストレス情報処理効率に及ぼす影響を実証的に研究することで、脳の回路レベルの個体差が生存に及ぼす効果を検討することができる。研究グループは、「本研究で明らかにされた脳の個体差は、精神神経機能の個性を探る途を開く」と、述べている。
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