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化学療法後の骨髄抑制からの回復に、血中胆汁酸が補助因子として関与-東邦大ほか

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2020年06月09日 AM11:45

化学療法後は、迅速な正常造血回復が大変重要

東邦大学は6月8日、化学療法後の急速な血球回復時に胆汁酸が補助因子として関与することを発見したと発表した。この研究は、同大医学部小児科学講座の羽賀洋一講師、スウェーデンのルンド大学幹細胞研究所遺伝子治療・分子医学分野の三原田賢一講師らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Blood Advances」(オープンアクセス)に掲載されている。


画像はリリースより

化学療法は、さまざまな種類のがんの標準的な治療として行われている。抗がん剤は細胞分裂が盛んな細胞に特に効果がみられるため、増殖の盛んな腫瘍細胞だけではなく、正常細胞、とくに粘膜細胞や骨髄で産生される正常な白血球や赤血球、血小板にも影響を与える。そのため、抗がん剤の投与後は粘膜障害や正常血球の減少()が生じ、輸血が必要となり、易感染性から重症の感染症に苛まれることも少なくない。また、化学療法を継続していく中で、徐々に正常造血の力が衰えて血球回復が遅くなり、予定された治療期間が延びることも起こり得る。骨髄抑制から迅速に正常造血が回復することは、患者の安全・確実な治療の実施にとって大変重要だ。

骨髄回復期の一過性の胆汁酸増加は造血促進に関与しているのか?

羽賀講師らは、小児科の白血病・がん患者の診療データから、骨髄抑制からの正常血球の回復の直前から回復にかけて、血液中の総胆汁酸値が一過性に増加することを発見した。経験的に、骨髄抑制からの回復には血液細胞である血小板、網状赤血球、単球らが免疫能の中心となる好中球に先んじて増加することは知られている。しかし、総胆汁酸値の増加は、これらの血球よりも数日先に起こり、かつ他の肝逸脱酵素や胆道系酵素であるALT、γGTP、T-Bilと相関しないことから、薬剤性肝障害としてではなく、正常造血に関与することが推測された。

一方、三原田講師らは、造血幹細胞はタンパク質を正常に折りたたむために必要なシャペロンタンパク質の働きが弱いために、増殖させると異常な折りたたみを起こした変性タンパク質が蓄積して「小胞体ストレス」が上昇し細胞死を起こすことを発見していた。さらに、この小胞体ストレス上昇は分子シャペロンとして知られる胆汁酸の一種であるタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)を培養に添加することで解消されることもマウスによる実験で示した。

そこで今回、研究グループは、骨髄回復期に生体内でみられる一過性の胆汁酸の増加は、造血幹細胞の機能を保持することで造血を促進する役割を担っているという仮説を立て、検証を行った。

骨髄回復と胆汁酸濃度に相関あり、造血幹細胞等を小胞体ストレスから保護

まず、(5-FU)によるマウスの骨髄抑制モデルを用いて、ヒトと同じく骨髄回復期に胆汁酸が増加するかを解析。その結果、ヒトと同様に骨髄回復期に一過性に総胆汁酸が有意に高値となった。この総胆汁酸値の上昇期には、胆汁酸合成酵素の1つであるCyp8b1の発現が有意に上昇していた。そこでCyp8b1ノックアウトマウスを用いて同様に5-FU投与実験を行ったところ、正常マウスに比べて骨髄回復期には有意に造血幹細胞をはじめとした血球の回復が遅延していることが判明した。

次に、胆汁酸が小胞体ストレスを減らすことで血球回復を促進するかを調べるために、骨髄回復期に小胞体ストレスを阻害薬のサルブライナルをマウスに投与した実験と、小胞体ストレスを低減することが知られている胆汁酸のTUDCAをマウスに投与した実験を実施。その結果、両実験とも回復期の造血幹細胞や血液前駆細胞の増多を認めた。これらの結果から、胆汁酸は化学療法後の造血回復の過程において造血幹細胞や血液前駆細胞を小胞体ストレスから保護することによって造血の促進を補助していることが示唆された。さらに、臨床データの統計学的解析を行った結果、骨髄抑制時の血中胆汁酸値が高いほど骨髄回復までの期間が有意に短かったことから、胆汁酸値は生体内の骨髄中の造血する力を推し量るパラメーターになると考えられた。

今回の研究で、胆汁酸という、一見造血とは関連のない分子が生体内ストレス反応の一環として重要な役割を担っていることが、臨床データと実験データの双方から発見された。研究グループは、「これらの発見は、今後より安全な化学療法の実施を通じて、より効果的ながん治療法の開発につながるものと期待される」と、述べている。

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