患者由来iPS細胞でラパマイシンに軟骨分化抑制能、モデルマウスでは?
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は6月5日、進行性骨化性線維異形成症(FOP)マウスを用いてmTOR阻害剤であるラパマイシンの予防的投与による異所性骨化形成の抑制効果を検証し、自然発生する異所性骨、外傷後の非損傷部位に生じる異所性骨が抑制されることを示したと発表した。この研究は、CiRA増殖分化機構研究部門/医学研究科整形外科の前川裕継大学院生、CiRA増殖分化機構研究部門/ウイルス・再生医科学研究所/医学研究科の戸口田淳也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Orphanet Journal of Rare Disease」に掲載されている。
画像はリリースより
FOPは靭帯や腱など全身の結合組織に進行性の異所性骨化を呈する疾患。頻度は200万人に1人と極めてまれで、骨の形成に関わるBMPの受容体であるACVR1の点突然変異が原因であることが知られている。異所性骨化には外傷を契機に生じる場合と、明らかな誘引なく形成される場合が知られている。異所性骨化の形成にはまず炎症細胞の浸潤が生じ、間葉系間質細胞の集積/軟骨分化が生じ、骨形成が起きると考えられているが、まだ異所性骨化を抑制するのに有効な治療法は確立されていない。また、すでに形成された異所性骨化に対しては手術が検討されるが、侵襲により再発を来すために禁忌とされている。
これまでに研究グループは、FOP患者由来のiPS細胞(FOP-iPS細胞)を用いた実験で、アクチビンAが変異したACVR1に結合して異常なシグナルを伝えることで、間葉系間質細胞の軟骨分化を促進することを同定した。さらにFOP-iPS細胞を用いた薬剤スクリーニングでmTOR阻害剤であるラパマイシンがアクチビンAによる軟骨分化を抑制することを発見し、FOPマウスモデルにおいても外傷後の異所性骨形成が抑制されることを確認した。今回はFOPマウスモデルにおいて、自然に形成される異所性骨、外傷後に形成される異所性骨、異所性骨切除後の再発に対するラパマイシンの効果の確認・投与時期の検証を行った。
FOPマウスに予防的投与で自然発生の異所性骨が抑制、炎症期でも抑制
まず、自然発生する異所性骨に対するラパマイシンの予防的投与について検証。変異ACVR1を発現させたFOPマウスを単独で飼育し、Vehicle(コントロール)またはラパマイシンの投与を行い、異所性骨の形成をCTで評価した。その結果、Vehicle投与群では外傷を加えなくても全例に顎、股関節、肋骨周囲などに異所性骨化が観察されたが、ラパマイシン投与群では異所性骨の発生率・体積ともに低下が認められた。
次に、外傷後異所性骨化に対するラパマイシンの投与時期を検討。FOPマウスに対して骨格筋損傷を加え、ラパマイシンを損傷前・損傷時に投与開始した場合に形成される異所性骨化の体積を比較した。その結果、筋損傷部位の異所性骨化はどちらの治療群でも抑制効果が認められたが、FOPマウスでは筋損傷後に非損傷部位でも異所性骨の形成がみられ、ラパイシン先行投与群でのみ有意に抑制された。また、骨格筋損傷後早期の炎症期におけるラパマイシンの効果をFOPマウスの組織切片で確認したところ、ラパマイシンにより単球/マクロファージなどの炎症細胞の浸潤が抑制され、異所性骨化形成の初期においても抑制効果がみられた。
ラパマイシン予防的投与は異所性骨切除後の再発も軽減
最後に、FOPマウスをコントロール群、ラパマイシン切除時投与開始群、先行投与群に分け、骨格筋損傷後に形成された異所性骨の切除を行い、異所性骨の再発を評価した。結果、異所性骨の切除により、いずれの群においても異所性骨の体積は減少したが、コントロール群では異所性骨の再発を認めた。ラパマイシン投与を行ったどちらの群でも再発は抑制されたが、先行投与群の方が抑制効果は顕著だった。
今回の研究では、FOPマウスを用いて、自然発生する異所性骨、損傷後に生じる異所性骨、異所性骨切除後の再発に対するラパマイシンの予防的投与による効果を検証し、有効性を確認した。研究グループは、「臨床面においてもラパマイシンの予防的投与による有効性が期待されるが、異所性骨切除後の再発に対してはより強固に抑制する治療法を今後さらに探求する予定」と、述べている。
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