約5%で術後の偶発的な出血、出血性ショックなど重篤な状態も
東北大学は6月5日、早期胃がんに対して内視鏡治療を行った後の出血予測モデル(BEST-Jスコア)を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の八田和久助教、正宗淳教授らと、名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学の藤城光弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gut誌」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
内視鏡的粘膜下層剥離術(以下、内視鏡治療)は、通常の外科手術に比べて身体への負担が少ない治療法だ。リンパ節転移の危険性のない早期の胃がんに対して広く行われているが、約5%の頻度で術後の偶発的な出血が起こることが報告されている。内視鏡治療後に出血が起こると、吐血や下血、ふらつきなどの症状を引き起こし、緊急の止血処置や輸血が必要となる。場合によっては、出血性ショックなど重篤な状態となることもある。そのため、術前に患者の出血リスクの分類が可能となれば、高リスク患者では予防的止血処置を重点的に行い、出血を早期に発見するため注意深くモニタリングを行うなど、迅速に適切な処置をとることが可能となる。
内視鏡治療後の出血には各抗血栓薬の使用や切除する腫瘍の大きさなど様々な因子が関わっており、術後の出血を予測するためには、これらのリスク因子を複合的に評価する必要がある。しかし、これまで早期胃がんの内視鏡治療後の出血を予測する客観的な指標はなかった。
超高リスク患者の出血リスク、低リスク患者の10倍以上
今回、研究グループは、大規模な臨床データを用いて早期胃がんの内視鏡治療後の出血予測モデルを開発。同研究では、2013~2016年の国内25施設における早期胃がん内視鏡治療患者約8,300人に対して、出血に関連する可能性のある23因子の解析を行った。
研究では、出血に関連する10因子を同定し、これらの因子を出血リスクに応じて統計学的に点数化。これらの点数を組み合わせることで早期胃がん内視鏡治療後の出血を予測するモデル(BEST-Jスコア)を開発した。さらに、国内別地域の8施設において同時期に早期胃がん内視鏡治療を行った約2,000例に対して出血予測モデルを当てはめて解析し、その出血予測の妥当性を証明した。
BEST-Jスコアでは出血リスクの層別化、出血率の可視化に成功し、低リスク(0−1点)・中リスク(2点)・高リスク(3−4点)・超高リスク(5点以上)における内視鏡治療後出血率がそれぞれ2.8%、6.1%、11.4%、29.7%だった。この結果より、超高リスク患者では低リスク患者の10倍以上の出血リスクがあることが明らかとなった。
また、服用していた抗血栓薬のうち休薬した薬剤数に応じて出血リスクが低下するものの、抗血栓薬内服患者では休薬してもある程度の出血リスクが残ることが判明した。
BEST-Jスコアを日常臨床で簡便に使用できるアプリ、無料でダウンロード可能
研究グループは、今回開発された早期胃がん内視鏡治療後の出血予測モデル「BEST-Jスコア」について、今後の日常臨床における信頼性の高い出血リスクの指標となることが期待されるとし、出血リスクの層別化・可視化により、予測モデルに基づいた個別化医療の実現も期待される、と述べている。
また、BEST-Jスコアを日常臨床で簡便に使用できるようにするため、東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野にてアプリを開発。iPhone版、アンドロイド版ともに無料でダウンロードが可能となっている。
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