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糖尿病治療薬メトホルミン、便の中にブドウ糖を排泄する作用を確認-神戸大

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2020年06月05日 PM12:00

メトホルミンによる血糖値低下メカニズムの詳細は?

神戸大学は6月3日、糖尿病治療薬「」が便の中にブドウ糖を排泄する作用を有することを、ヒトを対象とした研究で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の小川渉教授、放射線診断学分野の野上宗伸特命准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国糖尿病学会学会誌「Diabetes Care」に掲載されている。

糖尿病は血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が高くなる病気であり、血糖値の上昇が血管を傷つけることにより、さまざまな病気を引き起こす。日本の糖尿病患者数は1000万人を超えるとされ、糖尿病によって引き起こされる合併症の予防は、医療の重要な課題だ。

血糖値を下げる薬はいろいろなものが開発されており、その中でも、メトホルミンは古くから使われている薬剤。販売開始後60年以上が経過しており、現在、世界で最も多くの患者が服用している糖尿病治療薬だ。

メトホルミンの服用により患者の血糖値は下がるが、同剤がどのようなメカニズムで血糖値を下げるのかについて詳細は明らかになっていない。メトホルミン作用メカニズムの解明により、より良い糖尿病治療薬の開発につながるため、メトホルミン作用の研究は世界中で行われている。


画像はリリースより

メトホルミンを服用している・していない糖尿病患者のブドウ糖の動きをPET-MRIで調査

フルオロデオシグルコース-ポジトロン断層撮影(fluorodeoxyglucose-positron emission tomography:FDG-PET)は、ブドウ糖によく似た物質であるFDGを患者の血管の中に投与し、その後FDGが体の中のどこに集まるかを調べる検査だ。FDGはヒトの体の中でブドウ糖と同じような動きをするので、体の中でブドウ糖がどのように動いているか、どのような臓器がブドウ糖をたくさん使うかなどを調べることができる。

FDG-PETは、通常PET装置とコンピューター断層撮影(computed tomography:CT)装置が一体化した装置を用いてFDG-PETとCTの画像を得て、FDGが体の中のどこに集まっているかを詳しく調べる。最近、PET装置と核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)装置が一体化したPET-MRIという装置が開発された。MRIは強力な磁力を利用して体の中を詳しく調べる検査であり、CTではわからない構造なども調べることができる。PET-MRIは、全国で9台しか設置されてない貴重な検査装置である。

今回、研究グループは、PET-MRIを用いてメトホルミンを服用している糖尿病患者と服用していない糖尿病患者の体の中でブドウ糖の動きを調べた。

便の中へブドウ糖を排出する作用、メトホルミンの血糖値低下効果と関係か

研究の結果、メトホルミンを服用している患者では、ブドウ糖(FDG)が腸に集まることがわかった。腸の中でどこに集まっているかを知るために、「腸の壁」と「腸の中(便やそのほかの内容物)」に分けて調べた結果、小腸の肛門に近い部分(回腸)から先において、メトホルミンを服用している患者の腸の中にブドウ糖が多く集まることが判明した。一方、「腸の壁」へのブドウ糖の集まり方には、メトホルミンを服用している患者と服用していない患者の間で差はなかったという。

この結果は、メトホルミンの服用により血液の中のブドウ糖が、腸から便の中へ出ていくことを示している。メトホルミンがブドウ糖を便の中へ出させることはもとより、ヒトの体の中でブドウ糖が腸から便の中に出ていくという現象自体、今まで知られていなかった発見だという。

近年、尿の中にブドウ糖を出す作用を有するSGLT2阻害剤という糖病治療薬が発売され、その効果に注目が集まっている。今回の研究で発見された、便の中へブドウ糖を出すという作用も、メトホルミンが血糖値を下げる効果と関係している可能性があるとしている。

便にブドウ糖を排出する作用と腸内細菌叢の変化は関係している可能性も

これまで、PET-CTを用いた検討で、メトホルミンの服用により腸にブドウ糖が集まることは報告されていたが、十分な根拠のないまま、ブドウ糖は腸の壁に集まるとされていた。今回、PET-MRIを使うことにより、初めて、ブドウ糖の集まり方を「腸の壁」と「便の中」に分けて調べることができ、「便の中」に集まることがわかった。

SGLT2阻害剤を服用すると、1日当たり数十gのブドウ糖が尿の中に出ていくとされている。今回の検討では、メトホルミンによって便の中に何gのブドウ糖が出ていくかという量的な評価はできなかった。研究グループは、今後、新しい撮像法の開発によって量的な評価が可能となれば、今回の発見の意義が一層明らかになると考えられるとしている。

また、メトホルミンによる腸内細菌叢の変化も、血糖値を下げる作用と関係していると考えられている。しかし、同剤がどのようなメカニズムで腸内細菌叢を変化させるかはわかっていない。ブドウ糖など栄養素の変化は細菌の増殖に影響を及ぼすため、便にブドウ糖を出すことと腸内細菌叢の変化は関係している可能性がある、と研究グループは述べている。

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