臨床現場で利用可能な、迅速・簡便・高精度な診断法が求められている
東京大学医科学研究所は6月3日、国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3により、サンプル中の微量なウイルスRNAを正確に検出する手法(CONAN法)を開発し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)迅速診断法として確立したと発表した。これは、同研究所先進動物ゲノム研究分野の吉見一人講師、真下知士教授らが、同ウイルス感染分野、感染症分野、および理化学研究所放射光科学研究センターとの共同研究として行ったもの。研究成果は、プレプリントサーバ「medRxiv」に掲載されている。
重篤な呼吸器疾患などを引き起こすCOVID-19を素早く簡単かつ高い精度で診断することは、更なる感染の拡大や重症化を防止するために極めて重要だ。COVID-19の原因である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しているかどうかを診断する方法としては、主にPCR検査法、抗原検査法がある。臨床検体に含まれるウイルスは数十個程度と非常に少ないことがあるため、少ない数のウイルスでも高感度に検出できるPCR検査法が利用される。しかし、PCR検査には専門的な技術や解析機器が必要なため臨床現場で実施することが難しく、特定の検査機関で実施しているのが現状となっている。
一方、抗原検査は30分程度と迅速にウイルスを検出することができるものの、検出感度が低くまた特異度も高くないため、偽陽性や偽陰性がPCR検査に比べて多いという問題がある。そのため、検出感度や検出特異度が高く、臨床現場で利用できる、迅速、簡便、高感度、高精度なCOVID-19診断法が世界中で求められている。
画像はリリースより
PCRの感度・正確度と、抗原検査の迅速・簡便・安価を併せ持った新診断法
今回、研究グループは、国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3を利用して、サンプル中の微量なウイルスRNAを正確に検出する手法を開発。「CONAN法」と名付け、新しいCOVID-19迅速診断法として確立した。SARS-CoV-2のウイルスRNAを用いて検査を行った結果、数十個程度のサンプルでも、最短40分以内に試験紙で検出することに成功した。
実際にCOVID-19陽性患者10例、陰性者由来サンプル21例の鼻腔ぬぐい液サンプルを用いて診断を実施した結果、陽性一致率(PPA)は90%(9例/10例)、陰性一致率(NPA)は95.3%(20/21例)を示したことから、高精度にSARS-CoV-2を検出できることが判明した。
CONAN法は、PCR検査法や抗原検査法と比較して以下の点が優れている。
1)患者由来サンプルから最短40分以内に検出可能
2)一般的な試薬、試験紙と保温装置だけで検出できるため、野外や医療現場、空港などのPOCT検査薬として、迅速かつ低コストで簡単に診断可能
3)数十個のわずかなウイルスRNAでも高感度かつ高精度に検出可能
4)CRISPR-Cas3は1塩基の違いも検出できるため、薬剤耐性や重症化を導く変異がウイルスに生じた際にも即座に検出法を確立可能
5)どのようなDNA配列にも対応することができるため、新型コロナウイルス以外のさまざまな感染症の遺伝子診断法として利用可能
すなわち、PCR検査法の感度、正確度という利点と、抗原検査法の迅速、簡便、安価という利点を併せ持った新しいCOVID-19診断法といえる。
キット化し早急に実用化へ、インフル診断への応用も
CRISPR検査法は、新型コロナウイルスのさらなる感染拡大や重症化の防止に大きく貢献できることが期待される。今後は、国内バイオベンチャー企業である株式会社C4Uを通じてキット化し、医療現場で簡易的に使用できるCOVID-19迅速診断薬として早急に実用化することを目指すという。また、毎年流行するインフルエンザの95%以上を占めるA型(H1N1pdm09、H3N2)についても同じ方法で検出に成功しており、新しいインフルエンザ診断法の開発も同時に進めていくとしている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース