運動性を維持した精子の選別、通常の細胞分取装置では困難
熊本大学は6月2日、マイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置を用いて、体外受精における受精率の向上に有用な精子を選別する技術を開発したと発表した。この研究は、同大生命資源研究・支援センター資源開発分野の中尾聡宏研究員、竹尾透教授、生殖工学共同研究分野の中潟直己特任教授、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」電子版に掲載されている。
体外受精において、高い受精率を得るためには、受精する能力を持った精子(受精能獲得精子)を選別することが重要だ。精子を選別する方法として、細胞分取装置の使用が考えられる。細胞分取装置とは、特定の細胞を分取することができる実験機器であり、さまざまな細胞の選別に利用されている。しかし、精子は物理的刺激を受けやすいため、通常の細胞分取装置では運動性を維持したまま精子の選別することが非常に困難だ。
画像はリリースより
マイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置、運動性を維持したマウス精子の回収に成功
今回、研究グループは、細胞への傷を軽減できるマイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置で、精子の選別技術の開発を試みた。マイクロ流体デバイスは、幅や深さが数μm~数百μmの微小な流路構造を持つ小型の実験装置で、化学研究やバイオ研究に幅広く活用されている。
同装置を用いて分離条件や分離に使用する培養液の最適条件を検討した結果、運動性を維持したままマウス精子を回収することに成功。また、同装置で回収した精子を用いた体外受精により、受精卵を作製することが可能となり、受精卵を仮親となる雌マウスの卵管内に移植することで産子へと発生することを証明した。
精子の中から受精能獲得精子を選別し、体外受精における受精率向上を確認
続いて研究グループは、同技術を用いて体外受精技術の改良を試みた。一般的に、受精能獲得精子は、先体反応と呼ばれる精子の形態的変化が起こることが知られている。そこで、受精能獲得精子の特徴である先体反応を起こした精子に結合する蛍光物質で標識し、マイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置により、受精能獲得精子と受精能獲得を起こしていない精子(未獲得精子)を選別。それぞれについて体外受精を行った結果、選別した受精能獲得精子は、未獲得精子よりも高い受精率を示すことを明らかにした。
同技術は、実験動物や家畜の繁殖、生殖医療における不妊治療において、体外受精の成功率を高める技術として応用が期待されるという。さらに、精子の性染色体を標識する技術と組み合わせることで、実験動物や家畜等の雌雄の産み分けへの応用も期待できる、と研究グループは述べている。
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