三次元培養下で周期的メカニカルストレス負荷を課し、腱様の構造を有する人工組織を作製
東京医科歯科大学は6月2日、三次元培養下で周期的メカニカルストレス負荷を課すことで、腱・靱帯様細胞が自律的に腱様の構造を有する組織を構築していくことを新たに突き止めたと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科システム発生再生医学分野の淺原弘嗣教授、片岡健輔研究員(日本学術振興会特別研究員PD)らの研究グループが、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科システム生理学分野の成瀬恵治教授ら、米国スクリプス研究所 Martin K. Lotz教授らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Frontiers in Cell and Developmental Biology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
腱・靱帯は低血管性であるため自然治癒力が低く、その障害が罹患者のQOLを長期にわたり低下させることが問題となっている。そのため、腱・靱帯の発生過程をより深く理解し、得られた知見を基に新たな治療法を開発していくことは非常に重要だ。
研究グループはこれまで、腱・靱帯特異的転写因子MKXに着目し、その腱・靱帯への発生再生の寄与を研究してきた。その際に得られた知見として、MKXがマウス胎児の発生過程の腱・靱帯の原基となる組織に発現していること、また、成体マウスにおいてはアキレス腱、椎間板や歯根膜の機能維持に関与していること、さらに力学負荷に応答して発現が上昇する遺伝子であることを明らかにしてきた。これらの知見は、転写因子MKXが腱・靱帯への発生・再生のプロセスに非常に強く貢献していることを示している。そこで今回、同知見を基に、三次元培養下で周期的メカニカルストレス負荷を課すことで、腱様の構造を有する人工組織の作製を目指した。
「MKX、三次元培養、メカニカルストレス負荷」の3条件が人工腱様組織作製に有用
研究グループは腱の発生過程に着目し、腱・靱帯特異的転写因子MKXの定常発現により腱・靱帯様細胞に分化させた細胞に三次元培養下で周期的メカニカルストレス負荷を課すことで、細胞が自律的に腱様の構造を有する組織を構築していく新たな人工組織の作製法の開発を行った。このような人工組織の作製法は、三次元培養した細胞を伸展する細胞伸展装置の開発が必要となる複雑な実験手法で技術的なハードル高く、あまり十分な知見が得られてこなかったという経緯がある。今回、その技術的なハードルを、細胞伸展装置の開発において多くの知見を有する岡山大学成瀬恵治教授と共同研究したことでクリアできたという。
開発した方法で作製された人工腱様組織は、主に1方向に配向性を有する1型コラーゲン線維束を組織内部に有しており、組織外部においては、主に3型コラーゲンより形成される腱鞘様の構造が確認された。これらの特徴は生体内の実際の腱組織においても特徴的な構造であり、この方法が生体内の腱の発生過程を部分的に模倣できている可能性を示唆するものだという。
さらに研究グループでは、この現象が腱・靱帯特異的転写因子MKXを発現させていない細胞を用いた場合、また、周期的メカニカルストレス負荷を課さなかった場合に、作製した人工腱様組織では、これらの腱組織様の構造が不完全な状態となっていることを発見し、腱・靱帯特異的転写因子MKXとメカニカルストレス負荷の組み合わせは個体の発生過程における腱・靱帯組織への寄与のみでなく、人工腱様組織作製においても有用であることを明らかにした。
今回の新規作成法が、腱・靱帯領域の疾患の新しい医療材料や治療法につながる可能性
今回の研究で、腱靱帯特異的転写因子MKX、三次元培養、メカニカルストレス負荷という3条件を組み合わせることにより、新規の腱様組織の作製法が開発された。また、作製された人工腱様組織からは、部分的に実際の生体内の腱組織と類似した構造が確認された。
研究グループは、「本研究により明らかにされた人工腱様組織作製方法は、腱・靱帯領域の疾患の新しい医療材料や治療法に発展する可能性が大いに期待される」と、述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース