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魚の積極的な摂取が糖尿病網膜症の進行を予防する可能性-慶大ほか

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2020年06月02日 AM11:15

HIF阻害作用をもち、糖尿病網膜症の病的血管新生を抑えられる食べ物はないか?

慶應義塾大学は6月1日、一定の種類の魚類より抽出された水溶性エキスが、糖尿病網膜症マウスモデルにおいて、網膜の病的血管新生を有意に約65%まで抑制することを確認したと発表した。この研究は、同大医学部眼科学教室の坪田一男教授、栗原俊英専任講師、三輪幸裕特任助教、正田千穂共同研究員らの研究グループが、静岡県水産・海洋技術研究所の二村和視上席研究員、岡本一利所長、日本大学医学部視覚科学系眼科学分野の山上聡教授らとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nutrients」(オンライン版)に掲載されている。


画像はリリースより

現在、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy:DR)や加齢黄斑変性(age-related macular
Degeneration:AMD)は日本の失明原因の上位を占め、患者数は増加傾向にある。その共通の病態として、病的血管新生という特徴がある。近年までに抗血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:)療法が確立され、一定期間においては完全矯正視力の改善・維持が得られるようになったが、投与を繰り返す必要があること、高額な医療費、合併症、視力改善困難な症例等、多くの課題が存在する。

近年、研究グループは、網膜組織内で低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor:)が異常に発現増加することで、病的血管新生を促進し、これらの疾患を増悪させうることをマウス実験において報告してきた。このHIF異常発現増加を抑制することができるHIF阻害剤のほとんどは、現在、抗がん剤として使用されている薬剤だ。眼科領域においてもHIF阻害剤の治療介入の可能性に関する報告はあるが、抗がん剤としての重篤な副作用をもつことから、具体的な創薬に関する報告はなかった。そこで今回の研究では、HIFの発現を検知するHIF-ルシフェラーゼアッセイを確立し、日常的に摂取することが可能な食物の中からHIF阻害作用をもつ物質を探索した。また、これらの物質が、糖尿病網膜症を模した酸素誘導網膜症(OIR)モデルマウスに対し、抗血管新生作用を持つかを検討した。

食用の魚「オアカムロ」エキスの経口投与でマウスの網膜に抗血管新生作用

研究グループは、さまざまな海洋生物の中からHIF阻害作用をもつものを探索する上で、HIFの発現を検知するHIF-ルシフェラーゼアッセイを用いて、海洋生物から抽出された水溶性エキス82種類の中から、HIFを抑制する作用をもつ6種類の魚エキスを同定。同定された魚の水溶性エキスが、糖尿病網膜症モデルマウスにおいて網膜の抗血管新生作用を示すことを発見し、同定された6種類の魚のうち、オアカムロのエキスをOIRモデルマウスに経口投与した。すると、病的血管新生は、コントロール群に比べ、オアカムロエキスで有意に抑制された。

魚エキスが網膜内のHIF抑制<VEGF、EPO減少<血管新生抑制

さらに、同定された魚の水溶性エキスが、異常なHIF発現により増加したVEGF、EPOを抑制することを発見。ストレスを与えHIF発現を増加させた培養網膜細胞に対し、魚の水溶性エキスによるHIFの抑制作用が示された。またストレスにより増加したHIFの標的遺伝子であるvegf、epoなどの血管新生因子が、魚の水溶性エキスの投与により有意に抑制していることが確認された。以上より、魚の水溶性エキスが網膜に作用しHIFを抑制することによって、異常増加した血管新生促進因子の発現を制御し、血管新生抑制効果を示している可能性が示唆された。

今回の研究は、日常的に摂取可能な魚の一部の成分が糖尿病網膜症の増悪を抑制する可能性を示すもの。研究グループは、「これらの成果は、糖尿病網膜症による現存の治療を続ける患者にとって、安全で取り入れやすい新たな治療法・予防法につながることが期待される」と、述べている。

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