QT延長症候群で遺伝子変異が同定されない症例や、同じ変異でも異なる臨床像
国立循環器病研究センターは5月29日、心臓突然死の原因である「QT延長症候群」におけるコモンバリアントの重要性を世界で初めて明らかにしたと発表した。これは、同センターの蒔田直昌研究所副所長、相庭武司臨床検査部部長、大野聖子分子生物学部部長、石川泰輔創薬オミックス解析センター室長らの研究チームと、オランダ・アムステルダム大学Connie R. Bezzina教授らとの共同研究によるもの。研究成果は米国の科学誌「Circulation」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
QT延長症候群(long QT syndrome;LQTS)は、心電図QT時間の延長を特徴とし、重症不整脈の発症によって突然死をきたす稀な遺伝性不整脈だ。約80%の症例で心筋イオンチャネルの遺伝子変異が同定されるが、遺伝子変異が同定されない症例や、同じ変異を持っていても臨床像が異なる場合もある。これらの症例では、変異以外の遺伝的要因、特に単一塩基多型(SNP)などのコモンバリアントが関与していると推測されていたが、詳細は解明されていない。
LQTSの発症リスクにコモンバリアントの蓄積が関与
研究グループはLQTSに関連する遺伝子座を同定するため、日本・欧米のLQTS患者1,656人とコントロール9,890人を対象にゲノムワイド関連解析を行い、LQTSに強い関連を示す4つのSNPを特定した。いずれも健常人のQT時間との関与が知られているSNPだ。LQTS症例全体の15%は、このうち特に関連が強い3つのSNPによって説明されることがわかり、LQTS患者とQT時間が長めの健常人の間には共通した遺伝的素因があることが示された。
さらに、これまでに解明されている68個のQT関連コモンSNPを用いて遺伝的リスク値(polygenic risk score;PRS)を計算すると、遺伝子変異陰性例のPRSは陽性例よりも高値で、LQTSの発症リスクにコモンバリアントの蓄積が関与していることが明らかになった。また、PRS上位25%の集団は、下位25%の集団に比べて、LQTS発症のオッズ比が約5.7倍高いこともわかった。
「さらに研究対象者を広げることで、より多くのSNPを用いたLQTS発症リスク評価法の構築が可能になり、心臓突然死のリスク層別化に寄与すると思われる。また家族性LQTS例におけるPRSの有用性を検討する必要がある」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース