原因遺伝子が特定されていないことから、根本的な治療法がほぼ未確立
京都府立医科大学は5月26日、これまで小児例のみに報告されていたLAMB1遺伝子変異による大脳白質脳症の成人期発症例を世界で初めて報告し、大脳白質脳症の新たな疾患概念を提唱したと発表した。これは、同大大学院医学研究科神経内科学 安田怜病院助教、水野敏樹教授、同ゲノム医科学 田代啓教授らの研究グループと、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 成育小児科学 酒井規夫教授、愛媛県立中央病院脳神経内科 渡部真志医長との共同研究によるもの。研究成果は、「Neurology: Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
白質脳症は頭部MRIで大脳白質に病変を認める疾患の総称で、認知機能障害や運動機能障害等の神経症状をきたす。白質脳症の一部は遺伝性疾患であり、種々の原因疾患が知られているが、これらは患者数が極めて少ない稀少疾患で、その多くでは根本的な治療法が確立していない。遺伝性疾患と疑われるにも関わらず、既知の遺伝子異常を認めない症例が存在し、このような症例では原因遺伝子の解明が望まれてきた。
LAMB1関連疾患の疾患概念が大きく拡大する可能性
研究グループは今回、潜性遺伝(劣性遺伝)が疑われる原因不明の成人発症白質脳症の家系において次世代シーケンサー(エキソーム解析)を用いた遺伝子解析を行い、基底膜の構成成分であるラミニンB1(LAMB1)遺伝子にホモ接合性のミスセンス変異があることを特定した。
ラミニンは基底膜を構成する3量体構造をもつタンパクで、LAMB1はこのうちのβ1サブユニットを遺伝学的に規定する。LAMB1遺伝子変異は、これまでフレームシフト変異が乳児期から小児期発症の重篤な神経症状を呈する白質脳症において報告されてきたが、ミスセンス変異が成人期発症の白質脳症で認められたという報告は世界初だという。同症例では、網膜血管異常と頭部MRIでperiventricular rimと呼ばれる特徴的な所見を認め、臨床的にLAMB1関連疾患を疑うきっかけになる可能性がある。今回の研究成果により、LAMB1関連疾患の疾患概念は大きく拡大するものと考えられる。
研究グループは、「LAMB1関連疾患の幅広い臨床像が明らかになることで、これまで原因不明とされてきた成人発症白質脳症の診断に寄与することが期待される。LAMB1関連疾患の症例が蓄積されることで、病態解明と疾患特異的治療法の開発につながることが望まれる」と、述べている。
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