第1種感染症指定病院勤務の医療スタッフ対象に抗体検査
神戸大学は5月25日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者対応病院の1つ、兵庫県立加古川医療センターにおける医療従事者の抗体検査を行い、対象者全員が新型コロナウイルスに対する抗体陰性であったことがわかったと発表した。これは、同大大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループによるもの。研究成果(プレプリント)は、「MedRXiv」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルスは医療スタッフにも感染し、医療崩壊の原因となると考えられている。また、新型コロナウイルス感染者の一部は、症状を示さないことが知られており、このような症状を示さない感染者が、病院スタッフとして働くことも、院内感染拡大の大きな原因となる可能性がある。
兵庫県立加古川医療センター(353床)は、国の指定する「第1種感染症指定病院」であるとともに「新型コロナウイルス感染症拠点病院」として、兵庫県内全域の患者、特に人工呼吸器管理を要する重症患者に重点を置いて治療している。2020年3月11日よりCOVID-19患者の受け入れを開始。同4月中旬のピーク時に、重症者も含め35人以上のCOVID-19患者が入院していた。研究グループは今回、同センター勤務の医療スタッフの感染既往を把握するため、同センター勤務の医療従事者の抗体調査を行った。
509人全員で新型コロナウイルスに対するIgG抗体は検出されず
5月1日に165人、7日157人、8日187人と、合計509人から血清を採取し、新型コロナウイルスに対するIgG抗体の検出を試みた。対象者は男性88人、女性421人、平均年齢は39歳(18~66歳)。職種別内訳は、医師77人、看護師310人、薬剤師1人、放射線技師20人、臨床検査技師19人、医療助手82人であった。そのうち、ICU/HCU勤務者115人、発熱外来勤務者18人、COVID-19患者専用病棟勤務者72人。COVID-19患者との接触から血清採取までの平均期間は23日だった。
その結果、医療スタッフ全員の血清から、新型コロナウイルスに対するIgG抗体は検出されなかった。つまり、患者に接触したにもかかわらず、医療スタッフ全員が新型コロナウイルスに感染したことがないと考えられる。また、COVID-19の発症後14日以上の患者(同センターに入院中で、PCR検査で新型コロナウイルス遺伝子が陽性であった患者)からの血清を用いて同様の実験を行ったところ、100%(10人中10人)からIgG抗体が検出された。このことから、同試験の特異性は高いと考えられる。
感染症標準予防策の順守の有用性示す
同センターの医療スタッフは、感染症標準予防策を順守しており、病院でマスクを着用し、各業務の後にアルコールで手指消毒を行っていた。また、PCR検査の検体採取時やPCR陽性患者と接触する際には、完全な個人用防護具を着用していた。COVID-19患者との接触を最長で53日間続けているが、これまでのところ、院内感染が疑われる事例は報告されておらず、同センターでの感染防護体制が十分であったことを意味する。
「今回の調査により、新型コロナウイルスに対する標準的な予防策の有用性が示された。標準予防策を適切に順守することで、新型コロナウイルスへの感染を着実に防ぐことができ得ると示せれば、世界中の医療従事者を大いに勇気づけるものと考えられる」と、研究グループは述べている。
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