EGFR遺伝子変異肺がんの治療抵抗性に対する新規治療法を開発
京都府立医科大学は5月21日、EGFR遺伝子変異を有する肺がんの新規治療法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器内科学病院准教授の山田忠明氏、教授の髙山浩一氏らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Clinical Cancer Research」掲載されている。
現在、日本国内の肺がん患者の約25%はEGFRと呼ばれる遺伝子が変異し異常に活性化している。そのような患者に対する治療薬として、がん分子標的薬であるEGFR阻害薬が開発された。今では複数のEGFR阻害薬が臨床で使用されている。このEGFR阻害薬による治療は高い確率で奏効するものの、一部のがん細胞が生き残り、EGFR阻害薬への耐性を獲得して再び大きくなることが問題となっている。これまでに多くの研究グループが、EGFR阻害薬に耐性化する原因を見つけ出し、その研究成果をもとに耐性化したがん細胞にも効く新世代薬が作られてきた。しかし、新世代薬にも再び耐性が起こり、新薬開発と耐性化とのいたちごっこが続いている。
さらに、最近の研究から、がん治療における「治療抵抗性細胞」の存在が明らかになり、がん研究の領域において注目を集めている。この治療抵抗性細胞は治療開始時から薬の効果が低く、薬による細胞死を免れることが知られている。肺がん治療においても、その解明と診断・治療法の開発が大きな課題であると考えられる。
研究グループはこれまでに、治療抵抗性細胞の原因として、普段は眠っているタンパク質AXLが、別のタンパク質であるEGFRやHER3と一緒になることで活性化し、肺がん細胞が生き延びるための刺激を維持していることを明らかにしてきた。
画像はリリースより
小野薬品工業創製のAXL阻害薬ONO-7475、早期臨床試験が進行中
今回、研究グループは、新世代のEGFR阻害薬であるオシメルチニブやダコミチニブにさらされたがん細胞が生き残る原因であるタンパク質AXLの活性を阻止する新規治療薬ONO-7475の有効性を明らかにした。今回の研究で使用した薬剤ONO-7475は、小野薬品工業で創製され、現在、早期臨床試験が進められており、臨床応用が期待されている。
EGFR遺伝子変異を持つ肺がん細胞株を移植したマウス動物実験モデルにおいて、AXLを抑えるONO-7475をEGFR阻害薬と併用した結果、がん細胞をほぼ死滅させ再発を著明に遅らせることが明らかになった。新世代EGFR阻害薬の効果がなくなった後に併用した時と比較して、これら2剤を最初から併用した方が、より高い治療効果が得られることを発見したという。
治療前の肺がん患者から得られたがん細胞のAXLを調べた結果、培養細胞を用いた研究結果と同様に、AXLを多く作っている肺がん患者は、そうでない患者と比べてEGFR阻害薬による治療成績が悪いことが判明。一方で、EGFR阻害薬の効果がなくなった後の肺がん患者から得られたがん細胞のAXLを調べたところ、培養細胞を用いた研究結果と同様に、AXLを多く作っている肺がん患者はそうでない患者と比べて、EGFR阻害薬による治療成績にあまり影響しないことがわかったという。
EGFR阻害薬/AXL阻害薬併用療法を最初から行うことで、肺がん再発までの期間延長に期待
これらの結果より、がん細胞がAXLを多く作っている患者では、最初からEGFR阻害薬とAXL阻害薬ONO-7475併用による治療を行うことが有用であり、EGFR阻害薬の効果がなくなった後から併用してもあまり効果は期待できないと考えられる。以上の研究結果から、EGFR阻害薬とAXL阻害薬ONO-7475併用による治療を最初から行うことで、がん細胞を死滅させ、肺がんを根治あるいは再発までの期間延長が期待されるという。
今回の研究で使用したONO-7475は現在、早期臨床試験が日米で進められている。研究グループは今後、EGFR遺伝子変異を有する肺がん患者のうちAXLが高発現している患者を対象に、新世代EGFR阻害薬オシメルチニブやダコミチニブと併用する臨床試験を行い、効果や安全性について評価していきたいとしている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース