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炎症などの生体ストレス下でも正確に造血応答を観察できる解析法を開発-東京医歯大

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2020年05月25日 PM12:00

既存の方法では、生体ストレス下での正確な解析は不可能

東京医科歯科大学は5月22日、感染や炎症などの生体ストレス下でも正確に造血系の変化を解析できる方法を開発したと発表した。これは、同大・難治疾患研究所・生体防御学の樗木俊聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより

赤血球や白血球、血小板などの血液細胞は、それぞれ酸素の運搬、生体防御、止血などの働きを介して生命や恒常性の維持に必須の役割を担っている。造血系は、血液の源となる造血幹前駆細胞(Hematopoietic stem progenitor cell:HSPC)から血液細胞が作られる仕組みであり、骨髄で恒常的に維持されている。

HSPCから作られる血液細胞の量や種類は、感染症や炎症性疾患、放射線や抗がん剤治療など、さまざまな生体ストレスにより変動することが知られている。また、HSPCによる血液細胞供給の変動や異常血液細胞の供給は、多くの疾患の回復や進展にも大きく影響することから、生体ストレス下での造血応答を正しく解析することで、病態の理解や新たな治療法の開発につながることが期待される。

造血系は、血液細胞の供給を介して全身に影響を与える大きな仕組みだ。そのため、造血系の研究には実験動物を用いた個体レベルの研究が必要不可欠である。しかし、これら動物モデルで造血系の解析に使われている従来の方法は、感染症や炎症などの生体ストレス下では正確な解析ができない致命的な欠陥があった。定常時、大部分の血液細胞を生み出すポテンシャルをもつHSPCはSca-1分子(以下、)を発現している。一方、少し分化の進んだ、特定の血液細胞のみを生み出す前駆細胞はSca-1を発現していない。ところが、ストレス環境下でインターフェロンが産生されると、インターフェロンの刺激によって後者にもSca-1が発現してしまい、両者の区別がつかなくなってしまう。そこで研究グループでは、ストレス存在下でも両者を区別できる新たな指標を用いた解析法を開発することにした。

Sca-1と類似の発現パターンを示し、インターフェロンの影響をほとんど受けないCD86を発見

研究グループは今回、Sca-1に替わる新たな指標となる分子を探索した。造血前駆細胞に発現する180個の分子をスクリーニングした結果、CD86分子(以下、)が、定常時、Sca-1と類似の発現パターンを示すことがわかった。次に、CD86が感染症や炎症に伴い、定常時に発現していなかった前駆細胞に発現誘導されるか解析した。その結果、Sca-1とは対照的に、CD86は生体ストレス環境で産生されるインターフェロンの影響をほとんど受けないことが判明した。さらに、CD86を新たな指標にして、生体ストレス下で造血応答を解析した結果、Sca-1を用いた従来の解析法では低下するとされていた赤血球産生が逆に亢進すること、同様に低下するとされていた造血幹前駆細胞の機能が正常に維持されていることが証明された。

今回の研究成果において、研究グループは、Sca-1の発現を指標にした従来法に替わり、生体ストレス存在下でも厳密に造血幹前駆細胞を検出し造血応答解析を可能にする、CD86を用いた新たな解析法を開発した。今後、これまで従来法で解析・報告されてきた多くの造血研究成果が、CD86を用いた新たな解析法で再検討され、結論の信頼性が確認または見直されることとなる。

研究グループは、「従来法では見逃されていた造血現象の解析が可能になることで、生体ストレスに対する造血応答の理解が深化し、造血系疾患病態の正確な把握や治療法への応用が期待される」と、述べている。

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