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「コロナ制圧タスクフォース」発足、ゲノムから重症化解明とワクチン開発へ-慶大ほか

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2020年05月25日 PM12:45

異分野の専門家が集まり合理的、客観的に研究推進

慶應義塾大学は5月21日、感染症学、ウイルス学、分子遺伝学、ゲノム医学、計算科学を含む、異分野の専門家からなる共同研究グループ「コロナ制圧タスクフォース」を立ち上げたことを発表した。これは、同大と、、国立国際医療研究センター、、京都大学の共同研究グループによるもの。


画像はリリースより

今、世界は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症()による未曾有の脅威に直面している。専門家の見解によれば、このパンデミックは2~3年続き、この秋冬にも流行の第2波が到来することは必至の状況ともいわれている。こうした社会状況をふまえて、研究グループは「コロナ制圧タスクフォース」を立ち上げた。当初は少人数の医師と研究者による議論でスタートしたが、日本を始め全世界で、毎日、多数の死者が出ている現状を前にして、「医学」「科学」という観点から社会に貢献することはできないかと考える大勢の人が集まり、その輪が広がっている。ICUの最前線で診療に当たる人々、大学病院で働く医療スタッフ、地域医療の最前線を担う開業医、免疫学者、感染症学者、あるいはまた、こうした活動に共感をもつ一般の人々が、チームを作って新型コロナウイルス感染症をより理解し、合理的な予防や治療に資する、「客観的な」研究や情報の発信を目指している。

同タスクフォースのミッションは以下の通り。
1)できるだけ多数のCOVID-19に罹患した患者の検体(DNA、RNA、血漿)および臨床情報を集積することにより、国際協調も含めた研究の推進に資すること
2)臨床検体を用いた基礎的な研究を推進すること
3)ワクチン開発を推進すること

HLA多型等、宿主側の遺伝的因子が重症化に及ぼす影響を明らかにする

欧米諸国では、COVID-19による死者はすでに数十万人に及び甚大な被害が生じている。一方、日本を始めとする東アジア諸国では、これに伴う死亡率は欧米諸国と比較して低く、国際的にも注目されている。その要因として、高いマスク着用率と手指衛生遵守率、過去の類似ウイルス流行による潜在的獲得免疫の存在の可能性、BCG接種、特に日本においては国民皆保険制度を基盤とする医療システムと医療水準などが指摘されているが、「人種間での遺伝学的な相違」、具体的には、HLAを含むさまざまな多型がCOVID-19の重症化に重要な役割を担っている可能性が示唆されている。

そこで、今回の研究では、まず、COVID-19で重症化した患者と軽症ないし無症状で終わった患者のすべての遺伝子配列を決定して、両者で頻度に違いのある多型を見つけることを目的としている。COVID-19の重症化に関わる因子の一つとして「サイトカインストーム」が注目されている。これは免疫細胞の機能やそれに反応した生体の反応を調節するサイトカインが、正常の応答の範囲を大きく逸脱して過剰に産生される結果、ウイルスに感染した細胞のみならず、正常の細胞・臓器まで障害されてしまう現象。このような現象も、遺伝子多型によって影響を受けている可能性がある。

一方、新興ウイルス感染症の克服には有効なワクチンの開発が鍵となる。COVID-19の重症化に関与する日本人特有の遺伝子を特定できれば、COVID-19の重症化予測そして有効な治療薬の開発に役立つだけでなく、ワクチン開発の加速が期待される。また、研究グループは分子ニードル技術やオルガノイド技術などの独自の技術を有しており、SARS-CoV-2のワクチン開発にこれらの独自技術が相乗効果を生むことが期待される。

独自の分子ニードル技術で効率よく安全性高い粘膜ワクチン開発を目指す

研究チームは、共同研究機関(5月19日現在40病院)から日本人COVID-19患者の血液検体を600人分集積する予定。これらの検体を用いて、高解像度HLA解析、SNPアレイ解析、全ゲノムシーケンス解析、T細胞レパトア解析などの包括的な解析を行い、重症化例および軽症ないし無症候感染例を比較することにより、日本人COVID-19患者の重症化に関わる遺伝子を探索する。これを同定した後、次のステップとしてスパコンシミュレーションにより重症化に関わるSARS-CoV-2の抗原候補を同定し、重症化の予防により適したワクチン開発を行う計画だ。

なお一連のゲノム解析については、すでに慶應義塾大学および大阪大学における倫理委員会で承認されており、協力医療機関の追加を募りつつ、承認された医療機関より逐次検体収集を開始している。また、コロナ制圧タスクフォースでは、COVID-19の重症感染者と軽症・無症候感染者の遺伝学的・免疫学的解析から得られる情報を基盤に、独自の分子ニードル技術に基づき、SARS-CoV-2に対する有効な粘膜ワクチンの開発を目指す。

この技術で、ワクチンの成分を鼻腔や舌下など粘膜経由で接種すると、体内(細胞内)にウイルス抗原を届けることができるため、効率良くウイルスに対する免疫応答を誘導できる。加えて、分子ニードル技術を利用したワクチンの接種は、従来主流である皮下注射に比べて痛みも無く安全だ。

多くの共同研究施設(医療機関)を募集中

今回の研究では、COVID-19の重症化に関する遺伝子を探索するが、COVID-19の免疫応答に関与する遺伝子も網羅的に調べる。その成果を利用し、SARS-CoV-2のタンパク質配列のうち、効果的にCOVID-19の重症化を防ぎ、治癒や予防に結びつく部分を見つけ出すことが期待されている。

コロナ制圧タスクフォースでは、多くの共同研究施設を募集している(https://www.covid19-taskforce.jp/)。2020年7月に、一旦収集した検体のヒト遺伝子を解析し、9月を目処に研究成果を速やかにまとめる予定だという。同解析によって、COVID-19の日本人における重症化関連遺伝子を明らかにすることにより、COVID-19診断時に重症化を予測し、医療行政の指標として活用することによって、COVID-19第2波、第3波での医療指針に反映させ、医療崩壊を防止することが期待される。さらに、得られる免疫学的遺伝子の情報を基盤に、多くの日本人に適応するSARS-CoV-2ワクチンのデザインに利用できることが期待される。なお、研究成果と研究の進捗は定期的にサイト上で更新されていく。(QLifePro編集部)

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