治療薬と同様に、医師が処方する「治療用アプリ」
慶應義塾大学は5月21日、ニコチン依存症に対する治療用アプリの大規模多施設ランダム化比較対照試験の結果、禁煙外来での長期的な禁煙継続率が改善したことを明らかにしたと発表した。これは、同大医学部内科学教室(呼吸器)の正木克宜助教、舘野博喜講師(非常勤)、福永興壱教授、株式会社CureAppの佐竹晃太氏、鈴木晋氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Digital Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
喫煙は国内の予防可能な最大の死亡要因であるだけでなく、労働生産性を低下させ、医療費増加の原因となっている。喫煙行動の本態はニコチン依存症であり、その治療手段として、日本では2006年から禁煙外来が保険適用となっている。禁煙外来では12週間に5回の診療を行い、禁煙補助薬の処方やカウンセリングを行うが、1年後に禁煙継続できているのはわずか3割ほどであり、長期的な禁煙継続効果をもたらす手段が必要とされている。
近年、デジタル療法への関心が高まっており、海外ではすでに糖尿病などを対象とした治療用アプリが保険適用となった事例がある。国内でも治療薬のように、医師が処方して疾患のコントロールを改善する「治療用アプリ」の開発が進んでおり、今後、さまざまな疾患に対する治療用アプリの登場が期待されている。
国内初となる、アプリの臨床的な治療効果を検証する治験を実施
今回の研究で使用された「ニコチン依存症治療用アプリ」は、慶應義塾大学医学部内科学教室(呼吸器)と株式会社 CureAppで共同開発した国内初の治療用アプリであり、また、アプリの臨床的な治療効果を検証する治験自体も国内初となる。さらに、禁煙治療用アプリの長期的な効果を実証した大規模臨床試験は、国際的にも初めての試みだという。
研究で用いられた同アプリは、日本の禁煙外来治療ガイドラインに相当する「禁煙治療のための標準手順書」の治療内容に準拠している。さらに、研究グループが独自に開発した自動応答チャット、教育動画コンテンツ、デジタル禁煙日記などの機能により、日常での禁煙継続を支援するもの。
同試験は、全国31か所の禁煙外来を受診した喫煙者584人を対象に実施。標準的な治療内容に加えてニコチン依存症治療用アプリを併用した介入群と、治療用プログラムが入っていない対照アプリを使用した対照群とに患者をランダムに割り付け、有効性を検証した。その結果、9~24週における禁煙継続率は介入群で63.9%、対照群で50.5%となり、統計学的な有意差をもって半年間の禁煙効果が高まった(オッズ比1.73;95%信頼区間 1.24‐2.42, P=0.001)。さらに、9~52週における禁煙継続率でもその治療効果は有意に保たれており(介入群 52.3%, 対照群41.5%)、同アプリが1年後まで禁煙継続率を高めることが示された。
今後、同アプリが保険承認され、保険診療の処方ができるようになれば、これまで以上に多くの患者を禁煙成功へと導くことができると期待される。研究グループは、「デジタル療法が今後発展することにより、診療の質の均てん化や効率化につながることが期待される」と、述べている。
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