■アビガン「治験結果待つ必要」
日本医師会COVID-19有識者会議(座長:永井良三自治医科大学学長)は、新型コロナウイルス感染症治療薬の開発に関する緊急提言を声明として発表した。抗インフルエンザ薬「アビガン」など、既存薬が有効と煽動する風潮に懸念を表明。「有効性が科学的に証明されていない既存薬はあくまで候補薬に過ぎない」と断じ、「エビデンスが十分でない候補薬、特に既存薬については拙速に特例的な承認を行うことなく、科学的エビデンスが得られるまで臨床試験や適応外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべき」と拙速な承認に警鐘を鳴らした。
20日に都内で記者会見した笠貫宏副座長(早稲田大学特命教授)は、緊急提言を公表した理由について、「きちんとしたデータが示されない間に、治療薬への期待が大きすぎたり、期待を持てなくなることも良くない。透明性を持ち、有効性と安全性を理解した上で、未知の疾患と戦うべき」と述べた。
提言では、新型コロナウイルス感染症の効能・効果で特例承認された「レムデシビル」の予備的解析として行われたプラセボ対照ランダム化二重盲検比較臨床試験の結果について、同剤の優位性を示したことから「周到な研究デザインのもとに効果を証明したこの結果は画期的」と評価。「新型コロナウイルスを標的として創薬された特効薬登場までの時間的猶予を得るために有力な薬剤」と位置づけ、特例承認に一定の理解を示した。
ただ、「有事だからエビデンスが不十分でも良いということには断じてならない」とクギを刺し、新型コロナウイルスのように未知の疾患を対象とする場合は症例数の規模がある程度大きな臨床試験が必要と強調した。また、観察研究だけでは有意義な結果を得ることは難しいとし、質の高いランダム化比較試験でも確認するよう求めた。
さらに、既存薬を服用した新型コロナウイルス感染症患者の状態が改善したとの報道などを踏まえ、「有効性が科学的に証明されていない既存薬はあくまで候補薬に過ぎない」と強調。拙速に特例的な承認を行うことなく、十分な科学的エビデンスが得られるまで臨床試験や適用外使用の枠組みで安全性に留意した投与を続けるべきとした。
国内では、アビガンの観察研究が複数の医療機関で進められているが、記者会見で笠貫氏は「緊急事態時の観察研究はバイアスが多く、エビデンスレベルが低くなる」と指摘する一方、「それでも素晴らしい結果が出た場合はありだと思う」と述べ、ケースに応じて例外を認める考えも示した。
アビガンをめぐっては、政府が新型コロナウイルス感染症を対象に今月中に薬事承認する方針を示しているが、国内臨床研究の中間解析の結果、「有効性について判断できない」との意見が示されたとも言われている。
笠貫氏は、緊急提言について「有識者会議としての見解であり、日医と安倍晋三首相の考えと相反するものではない」としつつ、「有意なデータであればレムデシビルと同様に早く承認されると思うが、中間解析では科学的根拠が得られなかった。現在進行しているランダム化比較試験の結果を待つ必要がある」との考えを示した。