医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 先天性尿素サイクル異常症患者にヒトES由来肝細胞を移植、世界初-成育医療センター

先天性尿素サイクル異常症患者にヒトES由来肝細胞を移植、世界初-成育医療センター

読了時間:約 2分54秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年05月22日 PM12:15

体重6kgになり肝移植ができるまでの「橋渡し」の治療としての治験

国立成育医療研究センターは5月18日、先天性尿素サイクル異常症に対するHAES(ヒト胚性幹細胞由来の肝細胞)移植治療の医師主導治験を実施し、ヒトES細胞から作成した肝細胞をヒトに移植する安全性および、有効性を検証することができたと発表した。この治験を実施しているのは、同センター臓器移植センターの笠原群生センター長、福田晃也診療部長、阪本靖介副センター長、堀川玲子内分泌代謝科部長、同センター研究所の再生医療センター梅澤明弘センター長らの研究グループ。ヒトES細胞を使い、ヒトを対象にした治験は日本初。また、ヒトES細胞由来の肝細胞を、肝疾患の治療に用いた治験としては世界初だ。


画像はリリースより

新生児に対する肝移植は、技術的に困難であるばかりでなく、移植された肝臓が患者の腹腔内容積に対して相対的に過大となることから、呼吸不全や肝臓の圧迫による血流障害などの生命に関わる重篤な合併症を起こすことが多くある。そのため、通常は、安全に移植することが可能な体重6kgまで患者が成長するのを待って肝移植を行う。今回の医師主導治験の対象疾患である「」は、先天性疾患で出生後まもなく発症することからタンパク質摂取制限、薬物療法、血液ろ過透析による治療を行いながら、肝移植ができる体格(体重6kg)に成長するまで3~5か月間は待機しなければならない。脳死肝移植ドナーから摘出した肝臓から分離・凍結保存した肝細胞を利用することができる欧米では、この待機期間をより安全にするために、発症直後の新生児期に肝細胞移植をすることによって、血中アンモニア濃度の上昇を抑える治療が行われてきた。しかし、脳死肝移植ドナーからの肝細胞を利用できない日本では、肝細胞移植の細胞供給源(セルソース)として、安定した品質の肝細胞を安定供給することが、この病気の最大の課題となっていた。

そこで同センターは、新たなセルソースとしてほぼ無限に増殖させることができる、多能性幹細胞であるヒトES細胞由来の肝細胞に着目。ヒトES細胞を、肝細胞に分化誘導した状態で凍結保存しておくことで、緊急の移植にも対応できる。同センターは、国内に2つしかないヒトES細胞樹立機関として認められており、ヒトES細胞を使って、新生児をより安全に肝移植までつなぐことができる新たな治療法の確立を目指した。

生後2日後に高アンモニア血症を発病した患者に肝細胞移植を経て肝移植まで成功

今回の医師主導治験の患者は、出生時、出生後24時間は特に問題なく経過していたが、生後2日目に、多呼吸、筋緊張亢進、けいれんなどの症状が出現。血液検査で2,026µg/dl(正常値66µg/dl以下)と著明な高アンモニア血症が認められ、尿素サイクル異常症の疑いで同センターに搬送、持続的血液ろ過透析、薬物療法などの集中治療を開始した。その後、生化学的、遺伝子学的検査にて重症の尿素サイクル異常症(シトルリン血症Ⅰ型)と確定診断。生後6日後に、HAES肝細胞移植術実施となった。

移植は、患者家族によるHAES肝細胞移植に関する同意と、効果安全性評価委員会による被験者候補の適格性、医師主導治験実施の承認を得た後に、門脈圧・門脈血流などをモニタリングしながら実施。1億9000万個のHAES肝細胞を2日間に分けて投与し、肝細胞移植の手技による合併症・有害事象なく完了した。肝細胞移植後9日目、患者の全身状態は良好で、ICUを退出して一般病棟管理へ移行。9週経過後、タンパク質摂取量の漸増はあったが血中アンモニア濃度の上昇はなく、体重約5kgまでの増加が得られたため退院した。

移植後3か月経過後の定期外来受診時の血液検査で、アンモニア値を含め特記すべき異常なく経過を確認、5か月経過後に父親をドナーとする生体肝移植術を実施した。拒絶反応に対して免疫抑制療法を強化後は軽快し、その後、合併症を起こすことなく経過。移植2か月後、生後6か月で軽快退院となった。

肝疾患に関する再生医療等製品の開発につながると期待

今回の医師主導治験の成功により、肝疾患の患者に対するヒトES細胞を用いた世界初の臨床試験における安全性が示された。同医師主導治験をモデルケースとして、肝疾患に関する再生医療等製品の開発につながっていくことが期待される。

なお、同医師主導治験の選択基準は「新生児期発症型の先天性尿素サイクル異常症の患児であり、低体重(6kg以下)、肝移植を安全に実施できると判断された時点で肝移植を行うことが予定されていること」で、除外基準は「B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、AIDSウイルスへの感染、心疾患、肺疾患、神経疾患、悪性腫瘍等の疾患が否定されていること」となっている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大