GOF型変異p53は新たに発がん促進機能を獲得、悪性化や発がんと関連は?
金沢大学は5月19日、「p53遺伝子」の特異的な変異パターンによる、大腸がんの肝転移促進機構の解明に成功したと発表した。これは、同大ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の中山瑞穂助教、大島正伸教授、ソウル大学のSeong-Jin Kim教授の共同研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
がんは、遺伝子変異の蓄積が原因で発生する。その中でも、がん細胞増殖を抑制するp53遺伝子は、多くのがんで変異が認められる重要な「がん抑制遺伝子」として知られている。一方、遺伝子変異によりアミノ酸配列が変化した変異型p53は、新規に発がん促進機能を獲得していることが知られており、「Gain-of-Function(GOF)」型変異と呼ばれている。しかし、本来のp53によるがん抑制機能の欠損とGOF型変異p53による作用が、どのように相関して発がんや悪性化の促進に関わっているのかは、未だ報告がない。生体内でのがん細胞悪性化を再現するモデルが開発されていなかったことが、研究が進まない大きな理由の1つと考えられる。
野生型p53欠損とGOF型変異p53の発現が、転移巣形成に相互作用している可能性
研究グループは以前に、大腸がん発生に重要な4種類の遺伝子変異をマウス腸管上皮細胞に導入し、転移能を獲得したオルガノイドを樹立している。オルガノイドを構成するがん細胞は対立染色体上の片側のp53遺伝子にGOF変異が導入されており、もう一方には野生型p53遺伝子が残っている。今回、オルガノイドをマウスに移植して形成される肝転移巣の解析により、野生型p53遺伝子を欠損したがん細胞が選択的に転移再発していることが判明した。
また、オルガノイドの解析により、GOF型変異p53の発現に加えて、野生型p53遺伝子を欠損したがん細胞は、オルガノイド構造が著しく変化し、転移組織での生存率が顕著に高くなることが、転移巣形成促進に作用すると考えられた。さらに、遺伝子発現解析により、以上の特異的なp53変異パターンが幹細胞性と炎症/増殖に関するシグナルの亢進を誘導し、それが転移を促進する可能性も示唆された。
大腸がんに限らず、多くのがん組織ではp53のGOF型変異が検出され、悪性化が進行したがん細胞では野生型p53が欠損している。それぞれの現象が、がんの悪性化に関係していると考えられるが、本研究により、それらの相互作用が転移促進の鍵になることが初めて明らかになった。「GOF型変異のp53の機能を阻害することで転移巣形成を抑制できる可能性がある。将来的な大腸がん肝転移に対する新規予防・治療薬の開発戦略に大きく貢献できるものと期待する」と、研究グループは述べている。
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