腸内細菌が「認知機能」にどのように影響するのか?
国立長寿医療研究センターは5月19日、もの忘れ外来を受診した患者の便検体を収集し、バイオバンクに保存された臨床情報を活用して、腸内細菌と認知機能との関連を解析。その結果、腸内細菌の代謝産物が認知症と強く関連することを見出したと発表した。これは、同センターもの忘れセンターの佐治直樹副センター長が、東北大学、久留米大学、株式会社テクノスルガ・ラボと協力して行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
認知症の病態解明や治療薬の開発などを目標に、2016年から同センターを中心にオレンジレジストリ研究が開始され、認知症制圧のためのさまざまな研究が展開されている。今回の研究も、認知症に関する現在進行中の臨床研究の1つ。
近年、腸内細菌は消化管の病気や免疫などの身体システムに影響することがわかってきた。研究グループも以前、認知症の有無により腸内細菌の組成(腸内細菌叢)が大きく変化するという知見を発表しているが、腸内細菌が認知機能にどのように影響するかについては未解明だった。
認知症で代謝物が増加し乳酸が減少、新規予防法の開発につながる可能性
研究グループは今回、同センターもの忘れ外来を受診した患者に認知機能検査や頭部MRI検査などを実施し、検便サンプルを同センター・バイオバンクに収集。T-RFLP法で腸内細菌を解析し、液体クロマトグラフィーなどで代謝産物の濃度を測定した。
そして、代謝産物と認知症との関連について統計学的に分析した(久留米大学室谷健太准教授)。その結果、アンモニアなどの代謝産物は認知症において有意に増加し(オッズ比1.6倍)、乳酸は減少していた(オッズ比0.3倍)。これらの関連は、多変量解析によって既知の危険因子を調整しても同様の傾向だった。これは、年齢など、よく知られている認知症の危険因子とは独立して、糞便中のアンモニアや乳酸が認知症と関係することを示唆している。現在、東北大学の都築毅准教授と共同で、食事や栄養と腸内細菌の関連についても解析中だという。
今回の研究でわかった「腸内細菌の代謝産物が認知機能に関連する」という新しい知見は、認知症の機序解明に役立つ可能性がある。研究グループは、「特に、認知症で糞便中の乳酸が低下していたという新しい発見は、新規予防法の開発への糸口になるかもしれない。オレンジレジストリ研究は、認知症に関する研究基盤になっており、今後も、この研究基盤を利活用した研究の推進が期待される」と、述べている。
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