転写因子「RUNX3」の新たながん遺伝子機能を解析
熊本大学は5月15日、骨髄異形成症候群(MDS)の病態を解析して、従来、がん抑制遺伝子として考えられていた転写因子「RUNX3」ががんを増殖させる遺伝子機能を持つことを解明し、ヒトMDS細胞とモデルマウスの解析をもとに、発症メカニズムにつながる遺伝子発現異常の仕組みを発見したと発表した。この研究は、同大国際先端医学研究機構の指田吾郎特別招聘教授の研究グループによるもの。研究成果は、米国学術誌「Cancer Research」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
高齢者に好発する血液がんの一つであるMDSは、造血幹細胞より発生して造血不全を生じ、既存の抗がん剤治療が効きづらいことが知られている。
近年、網羅的なDNA解析の進歩により、がんにおける主な遺伝子変異がほぼ明らかになっている。一方で、がん発症をもたらす遺伝子群の発現変化の仕組みや、がんに特化して獲得される遺伝子の機能などの多くは明らかになっていない。
今回の研究では、従来、がん抑制遺伝子として考えられていた転写因子「RUNX3」の新たながん遺伝子機能を解析して、そのMDS発症における役割を解明した。
RUNX3がMYC遺伝子と協調してMDS細胞を増殖、MYCの機能阻害でRUNX3発現細胞の増殖を抑制
まず、ヒトMDS細胞のRUNX3発現レベルと生命予後との相関を解析した結果、RUNX3発現が高い患者ほど、予後が悪いことを確認した。次に、ヒトMDS細胞におけるRUNX3の発現は、TET2遺伝子に高頻度の変異があることから、TET2遺伝子を欠損したMDSモデルマウスを作製。マウスの細胞を調べた結果、RUNX3発現TET2欠損MDS細胞は、RUNX3と同じファミリー遺伝子である造血に不可欠な転写因子「RUNX1」の発現レベルとその機能を抑制していることが判明した。これは、ファミリー遺伝子の間の相互作用によって、正常な機能を抑制する新たながん発症の仕組みを示している。
また、RUNX3が、強力ながん遺伝子として知られるMYC遺伝子と協調してMDS細胞を増殖させており、MYCの機能を阻害することによって、RUNX3発現細胞の増殖が有意に抑制されることが明らかになった。
今後、研究のさらなる進捗によって、難治性がんであるMDSにおける転写因子「RUNX3」を標的とした新規治療法の開発が期待される。また、転写因子RUNXが重要な役割を果たす他の血液がん、例えば、ダウン症関連白血病などの研究への応用が期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・熊本大学 お知らせ