広く用いられる2種のADHD治療薬の作用機序は十分に解明されていない
京都大学は5月18日、注意欠如・多動症(ADHD)の主な治療薬であるメチルフェニデートとアトモキセチンが、脳での働きや行動への影響についてそれぞれ異なることを見出したと発表した。この研究は、同大医学部学生の鈴木志穂氏、医学研究科の木村亮助教、萩原正敏教授、情報学研究科の前川真吾助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Brain」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ADHDは、不注意(集中できない)、多動性(じっとできない)、衝動性(我慢ができない)を特徴とする神経発達症。学童期の子どもの5%に見られると言われており、その症状はしばしば大人になっても続く。ADHDの治療にはメチルフェニデート(商品名:コンサータ(R))やアトモキセチン(商品名:ストラテラ(R))が広く用いられている。これらの薬剤は、脳での神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリン)の挙動に働きかけると考えられているが、なぜ症状の改善につながるのかなど、詳しいことは十分にわかっていない。さらに近年、ADHD治療薬の長期使用に伴う影響にも関心が高まっている。そのため、さらなる基礎研究によってこれらの薬剤の特徴や影響を明らかにする必要がある。
研究グループは今回、脊椎動物のモデルとして広く用いられており、近年は、精神疾患の研究や薬剤の開発にも活用されているゼブラフィッシュを用いてADHD治療薬のメチルフェニデートとアトモキセチンについて脳での働きや行動への影響を比較する研究を行った。
不安様行動をメチルフェニデートは高めアトモキセチンは軽減
まず、2種類のADHD治療薬をゼブラフィッシュに8日間投与し、新奇環境下での探索行動と脳の遺伝子発現の解析を実施。この行動の観察により、不安の程度を評価することができる。遺伝子発現の解析にはRNA-Seqという手法を用いた。行動解析の結果、メチルフェニデートはゼブラフィッシュの不安様行動を高めるのに対し、アトモキセチンは同行動を軽減することがわかった。
次に、脳での影響(遺伝子発現)を調べたところ、各薬剤の投与で発現が変化した複数の遺伝子の中から、共通する遺伝子を同定することに成功。興味深いことに、これらの共通遺伝子は各薬剤に対して相反する挙動を示していた。さらに共通遺伝子の機能をデータベースで調べたところ、これらは脂質代謝に関わっていることが明らかになった。脂質代謝は近年うつ病など様々な精神疾患に関わることが報告されている。そのため、ADHD治療薬による脂質代謝への影響が病態にどのように関わっているか、今後明らかにする必要がある。
研究グループは、「今回の成果はゼブラフィッシュの実験に基づくものだが、今後は患者検体を用いた研究を併用し、将来的にはそれぞれの患者の特徴に応じて、最適なADHD治療薬を提案できるような研究につなげていきたい」と、述べている。
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・京都大学 研究成果