低温刺激によるアストロサイトのEPO発現変化とその神経保護効果を検討
愛知医科大学は5月12日、新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)を模した刺激を加えるとエリスロポエチン(EPO)の量が減少し、神経傷害的な環境が形成されること、そこに低温刺激を加えるとEPOの量が増加し、神経保護的な環境へと改善されることがわかったと発表した。この研究は、同大の山田恭聖教授(周産期母子医療センター)、名古屋市立大学の青山峰芳教授(病態解析学分野)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Journal of neuroinflammation」電子版に掲載されている。
HIEは胎児の脳血流が途絶することによって生じ、脳性麻痺など重篤な後遺症につながる予後不良疾患。現在、有効性が確認されている治療は、直腸温33.5℃になるように冷却を行う低体温療法のみだが、効果は不十分で作用メカニズムも不明瞭だ。EPOは低酸素条件下で脳内環境維持に働くアストロサイトから分泌される神経保護因子として注目されているが、HIE病態や低体温療法への関与は明らかになっていなかった。
今回、研究グループは、低温刺激によるアストロサイトのEPO発現変化とその神経保護効果を検討した。
画像はリリースより
低体温療法によりHIF発現安定化を介してEPO産生が亢進、神経細胞死を抑制
HIEでは酸素だけでなくグルコースも欠乏すると考えられる。そこで、今回の研究では、ラット初代培養アストロサイトにHIEを模した刺激として酸素グルコース欠乏刺激(OGD)を加えた結果、神経保護因子EPO発現の抑制を確認。このとき、EPOの転写因子であるHIF-2αの発現も抑制されていたという。
続いて、酸素グルコース欠乏刺激後に、低体温療法を模した刺激として33.5℃での低温培養を実施。その結果、HIF-2αの発現量が上昇し、EPOの発現も上昇した。
最後に、酸素グルコース欠乏刺激後のラット初代培養ニューロンを、低温群アストロサイト由来培地で培養。その結果、低温群由来培地で培養したニューロンのアポトーシスが有意に減少した。また、EPO中和抗体でEPOの働きをブロックすると、アポトーシス抑制効果が消失した。このことから、培養液中に増加したEPOの重要性が示された。
今回の研究結果より、HIE病態においてアストロサイトが低酸素・低栄養状態になった場合に、EPOの産生が乏しいことが示唆された。また、低体温療法を施すことでHIF発現安定化を介してEPO産生が亢進し、神経細胞死が抑制されることが示唆された。今回の知見は、低体温療法の作用メカニズムに基づいた新規脳保護治療の開発につながるものと考えられる、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・愛知医科大学 お知らせ