味覚嫌悪学習に深く関わる大脳皮質第一次味覚野における、抑制性シナプス可塑性の制御メカニズムを検討
大阪大学は4月30日、味覚嫌悪記憶の消去に関わる脳メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科の豊田博紀准教授(口腔生理学教室)によるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
大脳皮質第一次味覚野は、味の強さや質を認識する脳の領域として知られているが、味覚嫌悪学習においても重要な役割を果たすことが知られている。味覚嫌悪学習とは、ヒトや動物において、食後に腹痛や下痢などの体調不良を経験すると、直前に摂取した食べ物の味に対して嫌悪を獲得する学習のこと。例えば、生がきにあたってしまうと、その後、かきが食べられなくなる。しかし、味覚嫌悪学習によって嫌いになった食べ物を、再び食べることができるようになることがある。その仕組みについて、獲得した嫌な食記憶を消去する神経活動が生じるためと考えられているが、どのような脳メカニズムで生じるのかは明らかにされていなかった。
学習や記憶といった脳の機能は、関連する脳領域におけるシナプス伝達の可塑的な変化(シナプス可塑性)を伴うことがわかっている。味覚嫌悪学習においては、大脳皮質第一次味覚野におけるシナプス伝達の可塑的な変化が深く関わっていると考えられているが、そのシナプス可塑性の制御機構については、まだよくわかっていない。そこで今回、マウスの大脳皮質第一次味覚野において、抑制性シナプス可塑性の制御メカニズムを検討した。
味覚学習の全容解明、食を通じた子どもの健全育成などへの貢献に期待
まず、大脳皮質第一次味覚野の抑制性シナプスに可塑的変化が生じるかについて調査した。シナプスに連続高頻度刺激(100Hzで4秒間)を与えた結果、抑制性シナプスの伝達効率が低下した。次に、内因性カンナビノイド受容体に対する阻害薬の存在下で同様の実験を繰り返すと、抑制性シナプスの伝達効率の低下が抑えられるだけでなく、反対に、抑制性シナプスの伝達効率の増加が生じた。そのような抑制性シナプスの伝達効率の増加は、一酸化窒素の産生により生じることを見出した。また、一酸化窒素の産生により引き起こされる抑制性シナプスの伝達効率の増加が、内因性カンナビノイド受容体の活性化により抑えられることが判明。さらに、食欲抑制作用や学習・記憶に関わるホルモンであるレプチン存在下で同様の実験を繰り返すと、内因性カンナビノイド受容体阻害下と同様に、抑制性シナプスの伝達効率の増加が生じることも明らかにした。
これまでの研究で、内因性カンナビノイドは味覚嫌悪記憶の消去に関わることが報告されている。このため、今回の研究で明らかになった大脳皮質第一次味覚野における内因性カンナビノイドによる抑制性シナプスの伝達効率低下は、獲得した食の嫌悪記憶の消去に関わる脳メカニズムである可能性が強く示唆されるという。
今回の研究成果により、味覚嫌悪記憶の消去に関わる脳メカニズムの理解が進み、さらには、味覚学習の包括的理解に大きく貢献することが期待される。今後、食を通じた子供の健全育成や食習慣に起因する成人病予防などの応用研究への進展が期待される。
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