東大病院、東大医科研病院、虎の門病院、東京医歯大病院など6施設で
東京大学医学部附属病院は5月8日、肺炎を発症している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性患者を対象に、ファビピラビル(商品名:アビガン(R)錠200mg)とナファモスタットメシル酸塩(商品名:注射用フサン(R)50)の併用療法の特定臨床研究を開始したと発表した。同試験は、東京大学医学部附属病院のほか、2020年5月1日時点で臨床研究実施計画・研究概要公開システム(Japan Registry of Clinical Trials:jRCT)のホームページで情報が公開されている、東京大学医科学研究所附属病院(感染免疫内科教授 四柳宏氏)、虎の門病院(臨床感染症科部長 荒岡秀樹氏)、東京医科歯科大学医学部附属病院(呼吸器内科教授 宮﨑泰成氏)など6施設で開始し、今後、順次参加施設が追加される予定だ。
全世界的にSARS-CoV-2の感染が拡大している状況から、安全性が確認された既存の薬から治療薬を探す試みが有効と考えられ、候補薬について全世界で治験を含めた臨床研究が進行している。研究グループは今回、候補薬の中から日本国内で開発されたファビピラビルとナファモスタットメシル酸塩を有効性が期待できる治療薬として選択し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する臨床研究を計画した。
アビガンはSARS-CoV-2感染者の症状軽快の報告有、抗凝固作用を有するフサンは抗ウイルス作用以外の効果も期待
ファビピラビルは、「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」を効能・効果として、2014年3月に厚生労働省の承認を受けている。同剤は、生体内で変換されたリボシル三リン酸化体が、ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害する作用機序を有するため、インフルエンザウイルス以外のRNAウイルスへも効果を示す可能性がある。ファビピラビルのCOVID-19に対する臨床試験は数多く進められており、これまでに、中国からファビピラビルをSARS-CoV-2感染者に使用した結果、熱や肺炎の症状が軽快したという報告が発表されている。
ナファモスタットメシル酸塩は、タンパク分解酵素に対し阻害作用を有することから、膵炎の急性症状の改善、播種性血管内凝固(DIC)などにおいて有用性が確認され、すでに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤だ。東京大学医科学研究所の井上純一郎らは、SARS-CoV-2がヒトの細胞へ侵入する過程を阻止する可能性のある薬剤としてナファモスタットメシル酸塩を見出した。ヒトで感染が起こる際に重要な感染細胞と考えられる気道上皮細胞を用いたウイルス感染実験では、ナファモスタットメシル酸塩は50%効果濃度(EC50)が10nMという低濃度で感染を阻害することを明らかにした。また、COVID-19の重症例では血管内に血栓を発症することが報告されており、抗凝固作用を持つナファモスタットメシル酸塩が抗ウイルス作用以外の効果を示すことも期待される。
20~74歳のCOVID-19患者、「胸部画像で肺炎の症状が認められる」などの基準
同試験の対象者は、肺炎を有するCOVID-19患者で、以下の選択基準を全て満たす患者としている。
1)年齢:20~74歳(同意取得時)
2)性別:男性・女性
3)研究参加の登録時に下記の基準をすべて満たす患者
(1)研究参加に関して文書による同意をされた方
(2)PCR検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が陽性となった方
(3)胸部画像で肺炎の症状が認められる方
(4)37.5°C以上の発熱が認められる方
(5)同意取得時の妊娠検査が陰性の方
なお、今回の研究で使用するファビピラビルは富士フイルム富山化学株式会社より、ナファモスタットメシル酸塩は日医工株式会社よりそれぞれ無償提供を受ける。また、両社より同臨床研究実施中に得られる双方の薬剤に関する安全性情報の提供を受ける体制を構築した上で実施する。同臨床研究は、国の認定を受けた東京大学臨床研究審査委員会によって審査、承認され、同院ならびに参加施設の病院長の実施許可を得ている。また、同臨床研究の実施計画は厚生労働大臣に提出し、jRCTに登録され、jRCTのホームページで情報が公開されている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース