糖尿病や脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪性肝炎
神戸大学は5月5日、糖尿病や脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の原因に関わる経路を世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の小川渉教授、先進代謝疾患治療開発学部門の細岡哲也特命准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されている。
日本の糖尿病患者数は1000万人を超えるとされ、糖尿病によって引き起こされるさまざまな合併症の予防は、医療の重要な課題だ。糖尿病に合併しやすい健康障害の1つに非アルコール性脂肪性肝炎がある。非アルコール性脂肪性肝炎は、脂肪肝を基盤に発症し、肝硬変や肝がんなどの重篤な病態に進展する可能性のある慢性肝臓病。糖尿病との関係や発症メカニズムは明らかではなく、治療薬はない。
脂肪細胞は、全身の代謝の制御に重要な役割を果たす。糖尿病や非アルコール性脂肪性肝炎など肥満と関連が深い疾患では、脂肪細胞機能の障害が発症や進展の原因になると考えられてきた。しかし、脂肪細胞のどのような機能の障害が、どのようなメカニズムを通じて、糖尿病や非アルコール性脂肪性肝炎の発症や進展に結びつくかは十分に明らかになっていなかった。
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脂肪細胞でインスリンが効きにくくなるとFoxO1が過剰に活性化、糖尿病やNASHの原因に
インスリンは代謝を整える重要なホルモンであり、インスリンが効きにくくなると、さまざまな病気を発症すると考えられている。研究グループは、インスリンの働きを伝えるタンパク質PDK1を脂肪細胞だけでなくしたマウスを作製。同マウスは脂肪細胞のみならず、全身でインスリンが効きにくくなり、糖尿病と非アルコール性脂肪性肝炎を発症したという。
インスリンは、PDK1の働きを介して、FoxO1の働きを抑えることが知られている。そこで、脂肪細胞において、PDK1に加えてFoxO1もなくしたマウスを作製した結果、同マウスは糖尿病も非アルコール性脂肪性肝炎も発症しなかった。この結果より、通常、インスリンはPDK1の働きを通じてFoxO1を抑制しているが、脂肪細胞でインスリンが効きにくくなるとFoxO1が過剰に活性化し、全身でインスリンが効きにくくなり、糖尿病と非アルコール性脂肪性肝炎が引き起こされることがわかった。
炎症を引き起こす物質ロイコトリエンB4が関連
続いて、脂肪細胞のFoxO1の暴走が、どのようなメカニズムで他の臓器に異常を起こすのかを調べたところ、FoxO1がタンパク質5リポキシゲナーゼを増やすことが判明。5リポキシゲナーゼは炎症を引き起こす物質ロイコトリエンB4を作り出すタンパク質。PDK1を脂肪細胞だけでなくしたマウスで、ロイコトリエンB4の働きを抑えると、糖尿病が改善することがわかった。この結果は、少なくともFoxO1の暴走による異常の一部は、ロイコトリエンB4の働きによって起こることを示すという。また、このようなFoxO1の過剰な活性化や5リポキシゲナーゼの増加は、脂肪の多い餌を食べさせた肥満マウスの脂肪組織でも起こっていた。
今回の研究により、脂肪細胞でインスリンが効きにくくなると、FoxO1の暴走が起こり、糖尿病や非アルコール性脂肪性肝炎が発症すること、そして、そのメカニズムにはロイコトリエンB4が関わっていることが明らかになった。日本の非アルコール性脂肪性肝炎の患者数は300万人を超えると推定されているが、未だ承認された治療薬はない。今回の研究は、脂肪細胞を標的とした非アルコール性脂肪性肝炎の治療薬の開発につながることが期待されるという。また、ロイコトリエンB4の機能や産生を抑える薬剤は以前から開発されており、過去には海外で喘息治療薬として市販されていたものもある。すでに開発されている薬を用いて、新たに糖尿病治療薬としての効果を検討するドラッグリポジショニングを行うことも可能と考えられる、と研究グループは述べている。
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