日本の医療制度はフリーアクセス、ポリファーマシーと関連はあるか
筑波大学は4月30日、アンケートデータの解析から、通院中の医療機関数が多い高齢者は、かかっている病気の数や種類を統計学的に考慮した上でも、ポリファーマシーの可能性が高いと発表した。これは、同大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授、岩上将夫助教と医学類の鈴木俊輝5年生らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Health Services Research」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、高齢者におけるポリファーマシー(多剤併用:先行研究に基づき6種類以上の医薬品の内服と定義)が問題視されている。不適切なポリファーマシーにより、薬物有害事象(ふらつき・転倒、認知機能障害など)、入院、死亡等の可能性が高まることが知られている。英国などでは、かかりつけ医(プライマリ・ケア医)が処方を一括管理しており、薬の重複処方などに対処しやすい体制となっている。一方、日本の医療制度(フリーアクセス制)のもとでは、患者は複数の医療機関に自由にかかることが可能で、異なる医療機関から処方を受けられる。その結果、重複処方などの可能性が高まり、ひいてはポリファーマシーの可能性が高まることが懸念されている。そこで研究グループは、2016年に茨城県つくば市が実施した「高齢者福祉計画策定のためのアンケート調査」のデータを2次的に活用し、ポリファーマシーと通院中の医療機関数との関連を調べた。
通院中の医療機関が3施設以上で、1施設の人より約3.3倍ポリファーマシーの可能性が高い
同アンケート調査は、つくば市在住の要介護認定を受けていない高齢者(65歳以上)の中からランダムに選出された3,000人にアンケートを郵送配布し、1,557人から回答があった。そのうち、1つ以上の疾患を抱え、1施設以上の医療機関に通院中である993人を研究の解析対象とした。アンケートで、「何か所の病院・医院に通院しているか」という質問に対し、記入された数字を「通院中の医療機関数」(曝露)とし、「現在、医師の処方した薬を何種類飲んでいるか」という質問に対して「6種類以上」を選択したことをもって「ポリファーマシー」(アウトカム)と判断した。
また、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、通院中の医療機関数(1施設、2施設、3施設以上)とポリファーマシーとの関連を、年齢、性別、主観的な経済状況、および併存疾患の数と種類(「現在治療中、または後遺症のある病気はあるか(いくつでも)」という質問の17個ある疾患の選択肢から判断)を統計学的に調整した上で検討した。追加の検討として、対象者を通院中の医療機関が1施設と2施設以上の2グループに分け、傾向スコアマッチング解析も行った。
解析対象者993人(平均年齢:75.1歳、男性割合:52.6%)のうち、ポリファーマシーの割合は15.7%。通院中の医療機関数ごとのポリファーマシーの割合は、1施設で9.7%(50/516)、2施設で16.6%(55/332)、3施設以上で35.2%(51/145)であった。ポリファーマシーに対する調整後オッズ比(95%信頼区間)は、通院中の医療機関数が1施設の人と比べて、2施設で1.50(0.94-2.37)、3施設以上で3.34(1.98-5.65)だった。
また、傾向スコアマッチング解析では、通院中の医療機関数が1施設の516人と2施設以上の477人の対象者から、307ペアを選出。ポリファーマシーの割合は、それぞれ10.8%(33/307)と17.3%(53/307)であり(P=0.020)、ポリファーマシーに対するオッズ比(2施設以上vs1施設)は1.73(95%信頼区間1.09-2.76)だった。以上の結果から、高齢者において、併存疾患の数や種類を統計学的に調整して解析した上でも、通院中の医療機関数が多いほどポリファーマシーの可能性が高いことが示唆された。
このような不適切なポリファーマシーを減らすためには、お薬手帳やICTの活用、医師や薬剤師による積極的な処方薬情報の収集、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師による処方薬の一元管理などが効果的であると一般的には考えられている。「本研究は疾患の重症度までは統計学的に調整できておらず、また個々の処方内容の適切性についても検討できていないことを考慮しなければならない」としつつも、「今後、フリーアクセス制の医療システムとなっている日本においても、異なる医療機関で処方された薬を把握し、不適切なポリファーマシーを減らすことができるような体制の構築とその効果の検証が望まれる」と、研究グループは述べている。
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