エクソソーム分泌に関わる既報の遺伝子は選択性乏しく、治療標的にできず
東京医科大学は4月30日、独自に開発したスクリーニング法を用いて、前立腺がんにおける新たなエクソソーム分泌機構を解明したと発表した。これは、同大医学総合研究所の落谷孝広教授らと東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座の頴川晋教授、占部文彦助教、および、テオリアサイエンス株式会社らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
エクソソームは、さまざまな種類の細胞が分泌する100nmほどの脂質二重膜で囲まれた小胞で、細胞間相互作用に重要な役割を担っていることが知られている。特に、がん細胞由来のエクソソームは、がん細胞の周辺の細胞を制御し、がんの進展に関わることが多数報告されている。さらに、がん細胞は正常細胞よりもエクソソームの分泌量が多い傾向にあるため、エクソソームの分泌はがんのさまざまな悪性段階に関わると考えられている。
これまでにエクソソームの分泌に関わる遺伝子として「Rab27」「nSMase2」などが報告されている。しかし、これらの遺伝子は、がん細胞特異的に高発現している遺伝子ではないため、がん細胞のみを標的とすることができず、選択性に乏しいことから治療標的とすることが困難だった。
3つの遺伝子を同定、エクソソーム治療という新治療法の開発に期待
研究グループは、独自に開発したエクソソームの超高感度測定法である「ExoScreen法」と、マイクロRNAライブラリーを組み合わせた、がん細胞におけるエクソソーム分泌関連遺伝子のスクリーニング法を新たに開発。この方法を用いて、前立腺がん細胞株を対象にスクリーニングを行ったところ、「miR-26a」とその制御遺伝子である「SHC4」「PFDN4」「CHORDC1」がエクソソームの分泌を制御していることが判明した。
次いで、これらの遺伝子の発現を抑制した前立腺がん細胞をマウスに移植したところ、エクソソームの分泌が低下し、担がんマウスにおける腫瘍の増大が抑えられた。さらに、エクソソームの分泌が低下した前立腺がん細胞移植時、移植部位へ前立腺がん細胞から分泌されるエクソソームを同時に注入すると、腫瘍の増殖が回復することが確認された。
同定した3つの遺伝子は、これまでにがんの悪性化に関わるとの報告がなく、前立腺がんの治療としてこれらの遺伝子を標的とした薬剤の開発が期待される。また、従来の治療法とは異なる、エクソソーム治療という、新たな治療法確立への道をひらくことが期待される。「さらに、本研究で確立されたスクリーニング技術は、他のがん種においても利用可能であり、さまざまながん種のエクソソーム分泌機構の解明に役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。
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