現在WHO推奨のキニン治療以外の有効性は?
東京大学医科学研究所は4月30日、妊婦のマラリア治療を最適化するための新しいエビデンスに関する調査成果を公表したと発表した。これは、同研究所附属先端医療研究センターの齋藤真助教が、オックスフォード大学、抗マラリア薬の臨床エビデンスの構築に取り組む国際組織「The WorldWide Antimalarial Resistance Network(WWARN)」との共同研究によるもの。研究成果は、「The Lancet Infectious Diseases」に掲載されている。
妊婦はマラリアに感染しやすく、感染は母親と胎児の両方に悪影響を及ぼすことが知られている。しかし世界の妊婦の推定60%はマラリア流行地域に住んでおり、毎年1億2500万人の妊婦がマラリアの危険にさらされている。これまで妊娠中の母親は、胎児への薬の安全性への懸念のために臨床試験から除外され、抗マラリア薬の臨床試験においてはあまり研究対象とされていなかった。
一方、この20年間で一般に使用されているマラリア治療法が実際には安全であるというエビデンスが蓄積されてきた。しかし、妊娠中の女性に対する抗マラリア薬の有効性を評価するための合意されたガイドラインは存在せず、有効性もあまり検証されてこなかった。現在、キニンとクリンダマイシンの併用療法が妊娠初期の女性を治療するための推奨薬となっているが、クリンダマイシンはマラリア流行地域では広く利用することができず、実際には妊娠時期を問わず妊婦にはキニン単剤療法が使用されることが多い。
ACTの有効性と忍容性は、キニン治療法よりも優れていると判明
今回、研究グループは、10か国計19の研究から得られた、妊婦4,968人の既存データを対象として、個別患者データを用いて多階層解析を実施。この方法では、現時点で存在するほぼ全てのエビデンスを集積した結論を示すことができる。今回は、最も一般的に使用される「アルテミシニンをキードラッグとする併用療法(ACT)」のうち、アルテメテル-ルメファントリン(AL)を含むACTと、推奨薬であるキニンをキードラッグとする治療法との有効性と忍容性について評価を行った。
その結果、ACTの有効性と忍容性は、キニン治療法よりも優れていると判明。マラリアの高流行地域では、キニン治療から28日以内に58.0%の女性が熱帯熱マラリアを再発したのに対し、AL治療後の再発は13.8%だった。低流行地域では、どちらの治療もより高い効果がみられたが、それでもキニンの治療を受けた女性の33.6%が、28日以内に再発した。一方、ACTで治療を受けた女性の95%以上は流行の度合い(再感染の危険性)に関係なく、28日以内には再発しなかった。
また、マラリア原虫の生殖母体の治療後の出現頻度は、ACT治療後よりもキニン治療の後で高かった。生殖母体はヒトから蚊にマラリアを媒介するための特別な段階であり、つまりこれは、マラリアの感染を減らすためにACTがより優れているということを意味するという。キニンの投与は、腹痛、吐き気、嘔吐などの副作用のリスクが高いため、忍容性が低下する。キニンの推奨時期である妊娠初期では、つわりによって、さらに悪化する可能性がある。マラリアに感染した妊娠中の女性は一般的に、妊娠していない女性よりもマラリアによる症状が軽いため、副作用があると軽微な場合でも内服を自己中断してしまう可能性はより高くなるという。
研究グループは、「これらの研究結果を実際にある特定の地域で適用する場合には、抗マラリア薬の地域による耐性パターンに関する最新情報を考慮に入れる必要がある。また、妊娠中の女性に向けたより適切な、新しい投与量を模索する場合には、ACTの有効性と忍容性の両方を再評価する必要がある」と、述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース