感染者報告数の時間変化を、イタリアと日本で比較
北海道大学は4月28日、新型コロナウイルス感染症の流行初期における、日本の報告数の時間変化が、一般的に感染症流行下で観察される曲線に当てはまらず、直線的な変動をしていることを発見したと発表した。これは、同大人獣共通感染症リサーチセンターの大森亮介准教授、京都大学大学院総合生存学館/白眉センターの水本憲治特定助教、米ジョージア州立大学公衆衛生学院のGerardo Chowell氏の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Infectious Diseases」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症の流行を制御するためには、病原体の伝播を抑える必要がある。そのためには、病原体の伝搬がどの程度起きるかを計測することが第一歩となる。病原体の伝搬の計測は、感染者数の時系列から推定する手法が一般的であり、「再生産数」で計測される。これは、感染者1人当たりが引き起こす二次感染者数のことで、1を上回れば感染者数の増加、1を下回れば感染者数が減少することを示す。新型コロナウイルス感染症の場合、PCR検査で陽性となった人の報告数の時系列が多くの国で公開されており、このデータから再生産数を推定する研究が多く見られる。
流行初期において、報告数の時間変化は「曲線」(指数関数)で近似される。例えば、1人の感染者が1人より多い、ある定数の二次感染を引き起こしたとした場合、指数的に感染者は増加していくことになり、この指数増加が感染症の流行初期でよく観察されている。しかし、もし報告数の時間変化がこの曲線ではなく、例えば、直線的な変化が観察された場合、1人の感染者が1人にしか伝搬できない状況であるか、もしくは報告数が流行を反映していない可能性がある。研究グループは今回、米ジョン・ホプキンス大学が公開している日本、イタリアの新型コロナウイルス感染症の報告数の日報データを用い、この指数関数と直線のどちらのモデルがよりデータを捉えているかを比較検討した。
流行初期の解析には、報告数に加え、発症日等の複数の情報も併せて検討が必要
比較した結果、イタリアの報告数データは、全期間において指数関数によく当てはまっており、報告数データが流行状況を反映している可能性が高いことがわかった。対して、日本は、ある時点まで直線によく当てはまっているという結果になった。これは、時間とともに一定の新規陽性者が報告されていることを意味する。また、「1人の感染者が1人にしか伝搬できない流行状況である」という解釈以外に、「検査数が限られていたため、1日当たりの新規陽性者数が一定になってしまい、流行状況を捉えられていなかった」と、解釈することもできるという。
実際、検査数が大幅に増加した日を境に、日本の報告数データは指数関数モデルに当てはまるようになり、報告数データは感染症流行を反映し始めたと考えられる。直線で説明される報告数の時期と、曲線で説明できる時期の境は、1日当たりの検査数が大幅に増加した日に近く、検査数の増加が報告数データによる流行状況の把握を可能にしたと考えられる。
幅広い国や地域で公開されているデータは限られており、報告数の時系列データはその数少ない選択肢の一つであるが、検査の方針や計画によるバイアスが考えられるため、報告数の時系列データからの流行状況の解析には注意が必要である。「このバイアスを解消するためには、発症日ベースの報告数の時間変化のデータ、入院者数、重傷者数、死亡者数の時間変化のデータ等、複数のデータを用い流行を解析する必要があると考えられる」と、研究グループは述べている。
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