脳表層付近の神経線維の走行は、解析が技術的に困難なため未解明
金沢大学は4月27日、人間の脳の精細な解剖とMRI画像での描出により、脳の表層に神経線維の集まる微小構造体を発見したと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の中田光俊教授、篠原治道客員教授、尾﨑紀之教授、堀修教授および医薬保健研究域保健学系の中嶋理帆助教の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cerebral Cortex」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの脳は、しわのくぼみ(脳溝)およびしわとしわの間の盛り上がり(脳回)で構成されており、無数の神経線維がネットワークを形成することで脳機能を司っている。脳深部の神経線維の走行は昨今の脳解剖と画像解析技術により明らかになりつつあるが、表層付近の神経線維の走行は、解剖の難しさと画像での描出技術が確立されていないことから、明らかにされていない。しかし、ヒトの脳の高度に統合された脳機能を理解するためには、脳表層の解剖学的構造の理解が不可欠だ。
精緻な解剖+MRIにより、脳回内連絡U-fibeとcrossingを発見
研究グループは、今回、精細な脳表層の解剖と、脳白質線維の描出を可能とするMRI(拡散スペクトルイメージング)を用いて、脳の表層の神経ネットワークを明らかにした。これにより、ヒトの脳機能を担う根幹的な構造について、2つの発見をした。
1つ目は、脳回内を連絡するU-fibeの発見。これまでの研究で、隣り合う脳回はU-fiberと呼ばれる短い神経線維によって連結されていることが知られている。今回の研究では、従来の「脳回間」を連結するU-fiberに加え、「脳回内」を連結するU-fiberを発見した。
2つ目は、crossingの発見。脳回間と脳回内のU-fiberが、脳回内でさまざまな方向から特定のポイントに収束してピラミッド型の神経線維収束ポイントを形成していることを発見し、この頂点をcrossingと命名した。crossingは、片側大脳に100か所程度存在することがわかったという。
今回発見された脳表層の微小構造体crossingは、大脳全体を連結する神経ネットワークの基本構造を形成すると考えられる。さらに、crossingは脳の機能回復や機能移動を説明し得る構造であり、ネットワーク臓器としての脳の理解に極めて重要な知見だ。研究グループは、「今後、crossingの局在やcrossingが果たす機能的役割についての解明が進むとともに、脳研究が加速することが期待される」と、述べている。
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