PCR検査法の弱点を補うべく、抗体価測定方法の確立は喫緊の課題
大阪市立大学は4月27日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体検査法を開発し、4月15日から臨床試験を開始したと発表した。これは、同大大学院医学研究科寄生虫学の城戸康年准教授、中釜悠特任講師、金子明教授、臨床感染制御学の掛屋弘教授、救急医学の溝端康光教授を中心とした研究グループと米Mokobio Biotechnology社との共同開発によるものだ。
画像はリリースより
世界で感染が拡大している新型コロナウイルスの確定診断はPCR検査法により行われている。しかし、PCR検査法が抱える精度、迅速・簡便性、費用対効果の面での課題や現況を考えれば、PCR検査法のみを用いた感染症対策には限界がある。一時点の採取検体でウイルス存在診断を行うPCR検査法の性質の弱点を補うべく、抗体価測定方法の確立は喫緊の課題とされている。
ヒトがウイルス感染した時に産生される抗体の種類、質および量が、経時的にどのように変化するかを理解することは、ウイルス感染症の診断および治療において重要だ。SARS-CoV2に対する特異的IgM抗体の出現は「感染初期」を、IgG抗体の出現は「回復期」にあることを示唆する。どのような種類の抗体が、COVID-19に対して防御的な役割を発揮するかに関する知見は、患者の退院基準や治癒を判定する際に有用な情報となる。そこで、研究グループは血清学的診断法の確立と血清疫学研究を目的としたプロジェクトを始動した。
イムノクロマト法を用いた新抗体検査法、20μL程度の血液で測定可能
Mokobio Biotechnology社は、「量子ドット」という安定した蛍光を長時間保持する微粒子を利用した臨床生化学検査システムを保有している。研究グループは、同社との共同研究により、抗体検査に利用するウイルス抗原の選定および設計を実施。その結果、SARS-CoV2を構成するタンパク質であるスパイクとヌクレオカプシドの一部分を用いたイムノクロマト法による抗体検査法(SARS-CoV-2 IgM & IgG Quantum Dot Immunoassay)を開発した。開発した抗体価測定法では、蛍光計測機器を利用したデジタル判定により、検査者間の判定誤差を回避。20μL程度の微量血液で測定を可能にする。
また、同システムを利用した臨床研究を開始し、患者血清中のCOVID-19に特異的なIgM抗体およびIgG抗体の検出に成功した。加えて、研究グループは、より高精度の抗体測定法であるELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法を組み合わせることで、上記の検査キットの信頼性を高めることが可能であることも明らかにしている。さらに、感染後に産生される抗体の防御的な役割を検証する実験系も構築した。
続いて、これらの抗体価測定システムと研究基盤を利用して、全国にある20の研究機関および医療機関(COVID-19血清疫学研究コンソーシアム)において、COVID-19感染者および感染が疑われる患者の血清を用いた実証研究を開始。実証研究を経て、信頼性が高い抗体検査法を確立し、臨床的有用性の評価を行う計画だ。
現時点では研究用機器であるが、さらに開発を進め、COVID-19に対する体外診断用医薬品としての承認を目指す。また、同検査法は、検体採取を容易にしたことで、検体採取時の医療者感染リスクを低減。空港等の検疫や発熱外来、救急外来などでの迅速検査にも活用が期待される。「今後、COVID-19感染後に産生される抗体の質的・量的変化と臨床情報との関連性を明らかにすることで、より効率的な診断や治療方法の選択が可能となる。医療資源を有効利用しながらの感染拡大防止策に貢献したい」と、研究グループは述べている。
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