リチウムイオンの治療濃度は中毒濃度域と近いため週1回以上検査が必要
北海道大学は4月27日、血液中のリチウムイオン濃度を測定可能な紙を基材とした安価な検査デバイスの開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院総合化学院博士後期課程・日本学術振興会特別研究員の小松雄士氏、同工学研究院の渡慶次学教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Sensors」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
双極性障害の治療薬である炭酸リチウム錠剤は、血液中でリチウムイオンとして存在している。リチウムイオンは、治療濃度域が狭く(0.4~1.2mM)、重篤な副作用をもつことから、最低でも週に1回検査するよう医薬品医療機器総合機構が注意喚起している。現在の検査方法は、病院で採血をした後、数日後に結果が通知される。より効果的で安全な治療のために、その場で簡単に結果がわかる新規測定方法の開発が強く求められている。
紙を部材とする分析デバイスは、既存の方法に比べて安価、簡便、短時間、微量という特徴があるため、医療現場や食品検査、環境調査等の新たな分析ツールとして注目されている。また、紙の廃棄性の高さ(コストと簡便さ)から、特に医療分野においては超低価格の診断デバイスとして大きな期待を集めている。さらに測定は、紙デバイス上での色変化をデジタルカメラで撮影し、撮影画像を画像解析ソフトにより数値化するだけであるため、将来的にはスマートフォン等を利用して誰でも何処でも簡単に測定可能になる。
紙のみで特別な測定装置を必要としない安価な検出デバイスを開発
現在のリチウムイオン検査では、血漿と臨床診断用リチウムイオン検出試薬(体積比 1:60)を96穴プレートで混合して 10分間反応させた後、測定装置で吸光度を測定してリチウムイオン濃度を決定している。研究グループは、既存の印刷技術で疎水性インクを紙に印刷することで、特定の親水領域を有する紙デバイスの作製に成功しているため、これを応用して微小な円型親水領域を有する紙デバイスを作製し、そこに臨床診断で使用されているリチウムイオン検出試薬を濃縮乾固することで、96穴プレートでの混合と同じ検出環境を実現できると考えた。また、血液検査には、遠心分離器で血球成分を除いた血漿あるいは血清が必要だが、この分離方法では多くの血液が必要となる。そこで今回、研究グループは、少血液量かつ自動で血球分離可能な紙部材(分離ユニット)と検出試薬を濃縮乾固した紙デバイス(検出ユニット)を組み合わせた分析デバイスを考案した。
はじめに、直径4mmの円型親水性領域を有する検出ユニットを作製して、分離ユニットと接触による試料導入の調査を実施。単純に分離ユニットと検出ユニットを接触させただけでは、分離ユニットから検出ユニットの親水領域への試料導入は確認されなかったが、試料導入用のアダプターを作製することで、スムーズな試料導入が可能になった。また、円型親水性領域は約1.5μLの試料で満たされることがわかった。続いて、試料(1.5μL)に含まれるリチウムイオンを検出するために、濃縮乾固する検出試薬量の最適化を実施。その結果、20μLの検出試薬を濃縮乾固することで、測定範囲の最大濃度まで検出できることが明らかになった。そこで、20μLの検出試薬を濃縮乾固した検出ユニットを用いて、リチウムイオン標準試料の測定を行った。
2ステップで約1分、再現性高くセルフチェックへの応用にも期待
その結果、リチウムイオン濃度の増加に伴い検出ユニットの親水領域における発色程度が強くなることが確認された。画像解析により作成した検量線は、従来法に匹敵する高い測定性能(検出限界0.05mM、最大変動係数6.1%)を達成した。最後に、リチウムイオン含有血液試料を、開発した分析デバイスで測定したところ、回収率90%以上かつ高い再現性(最大変動係数9.8%)を達成した。さらに、検出までの操作工程は2 ステップ(血液導入、検出ユニットの接触)かつ簡便であり、所要時間は約1分だった。
今回開発された分析デバイスは、特別な操作や技術を必要とせず、分析装置なしで血中リチウムイオン濃度を測定できる。また、この手法は、リチウムイオン以外の血中成分の濃度測定にも容易に応用可能であり、簡易分析の新しい方法として広く用いられることが期待される。さらに、今後スマートフォン用の画像解析ソフト(アプリ)を開発することで、スマートフォンのみで測定することが可能となるため、将来的に自己ヘルスケアチェックなどのツールへの展開も期待される。
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