患者でみられる欠失領域以外の複数の遺伝子発現異常はエピゲノムが関与?
京都大学は4月24日、エピゲノムの異常がウィリアムズ症候群の病態に関わることを発見したと発表した。この研究は、同大医学研究科の木村亮助教、萩原正敏教授らの研究グループが、同⼈間環境学研究科の船曳康⼦教授、同医学研究科の村井俊哉教授、オランダ・マーストリヒト⼤学のBart P.F. Rutten教授、東⼤寺福祉療育病院の富和清隆院⻑、兵庫県⽴尼崎総合医療センターの平家俊男院⻑らとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Neuropsychopharmacology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ウィリアムズ症候群は、約1万⼈に1⼈にみられる⾮常にまれな病気で、7番染⾊体の⽚⽅にある⼀部分(7q11.23領域)が失われることで⽣じる。特徴的な妖精のような顔つき、陽気で多弁な⾼い社交性、⼼⾎管の異常、⾼⾎圧や糖尿病、成⻑と発達の遅れなどさまざまな症状がみられる。一方、このような症状は、すべての患者にみられるわけではなく、症状の程度にも個⼈差がある。しかしその原因はわかっていなかった。これまでは、失われた染⾊体領域内にある約28個の遺伝⼦に着⽬した研究が、多くの研究者によって進められてきたが、症状との関係は⼗分明らかになっていなかった。
研究グループは以前から、患者家族会などの協⼒を得て、ウィリアムズ症候群をはじめとした神経発達障害の研究に取り組んできており、ウィリアムズ症候群についてはこれまでに、失われた染⾊体領域以外に位置する複数の遺伝⼦の発現異常を⾒出し、論文報告をした。しかし、その発現異常の仕組みはよくわかっていなかった。研究グループは、遺伝⼦発現の制御に関わる、DNAの塩基配列に加えられた修飾(エピゲノム)がウィリアムズ症候群に関わっているのではないかと考えた。エピゲノムの中でも、DNAメチル化は、統合失調症や⾃閉スペクトラム症など神経発達障の病態に関わっていることが知られている。そこで今回の研究では、DNAメチル化状態に着⽬し、ウィリアムズ症候群との関係を調べた。
ANKRD30B遺伝⼦のメチル化亢進、脳で発現抑制を確認
研究グループはまず、患者と健常人を集め、問診や評価指標を使って、さまざまな症状の程度を確認。次に、被検者の⾎液からDNAを抽出し、マイクロアレイで網羅的にDNAのメチル化状態を調べた。その結果、380か所で両群に有意な差を認めた。さらに共メチル化ネットワーク解析という⼿法を⽤いて、メチル化状態に応じたグループ分けを⾏い、それぞれのグループがどのような機能と関連するかを調べた。すると、ウィリアムズ症候群と最も関連が強いグループ(M8)は、DNAメチル化が亢進した遺伝⼦で構成されており、神経発⽣や発達に関わっていることがわかった。
そこで研究グループは、M8グループのネットワークの中⼼を担う遺伝⼦の1つである、ANKRD30B遺伝⼦に着⽬。遺伝⼦発現に最も影響を与えるプロモータ領域について、パイロシークエンスという⼿法でANKRD30B遺伝⼦を調べたところ、ウィリアムズ症候群では有意にメチル化が亢進していることがわかった。この結果は、ウィリアムズ症候群ではANKRD30B遺伝⼦の発現が抑制されていることを⽰唆している。そこで、この遺伝⼦の脳での発現を調べたところ、予想通りANKRD30B遺伝⼦はウィリアムズ症候群で遺伝⼦発現が減少していた。これらの結果は、ANKRD30B遺伝⼦がウィリアムズ症候群でみられる社会・認知⾏動異常に関わっている可能性を⽰唆している。
今回の研究成果は、ウィリアムズ症候群では失われた染⾊体領域内にある約28個の遺伝⼦だけでなく、それ以外に位置する遺伝⼦の発現やDNAメチル化異常についても、併発する症状に関わっていることを⽰唆している。ウィリアムズ症候群と同じような、染⾊体の⽚⽅にある⼀部分がわずかに失われる病気は、他にも22q11.2症候群や16p11.2症候群などが知られている。今回の研究⼿法を使うことで、こうした病気に対しても新しい知⾒が得られる可能性があるという。⼀⽅、同研究は患者⾎液を⽤いた研究が主体となっている。研究グループは、ウィリアムズ症候群のさらなる病態解明、特に社会・認知⾏動異常について、海外共同研究者と連携し、iPS細胞や脳組織を使った研究を進めていきたいとしている。
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・京都大学 研究成果